「お買い物ですか?」
まるで、隣人であるかのような質問が、口をついて出た。
「いいえ、ただこうして、ここまで一緒にお散歩をして、
お茶を飲むことが日課なの。」
彼女は緩めた眼をして言う。
「そうですか。素敵ですね、そういうのって。」
心からの言葉だった。
「ありがとう。あなたもそう思われる?」
「ええ、とても。」
本当に、そうしているふたりが幸せそうで、気持ちが潤んだ。
「あなたも、このそばで暮らしていらっしゃるの?」
ピノキオのおじいさんのような彼は、
にこにことして、大好きな妻とわたしの話しを包んで、
ただただ、そこにいる。
「いいえ、日本からです。観光者なんです。」
「そうなの。てっきり、住んでいらっしゃるのかと思ったわ。
少しアメリカの訛りだとは思ったけれど、とてもきれいに話すから。」
そう言う彼女の横で、彼も頷いた。
「ありがとうございます。光栄です。」
「はじめて?ここへ来たのは。」
「いいえ、2回目です。」
わたしは言った。「といっても、10年以上も前のことですけれど。」
「そう。でも、もう一度訪れてもらえて、嬉しいわ。とっても。」
彼女は、そう歓迎してくれた。
「その時と、ここの景観がほとんど変わっていなかったから、
わたしも嬉しかった。特に、この教会の辺りが。」
そう言って、教会の上のクロスを見上げた。
「そうね。情緒あるものを残しておくこの街を、私たちも気に入っているの。
それに、あの教会は、私たちが遠い昔に誓い合ったところで、
とても大切な場所だから、格別にね。」
彼は、そう言う彼女の手をそっと握った。
それは、あまりにも自然で、
気が遠くなってしまうようなきれいな光景だった。
そうして、気取りのない、やさしい会話を楽しんだ。
その中で、あの教会の引力が、この旅の動機であることも話した。
実際には何も起こらずに、あてどなくここでぼんやりしていたことも。
すると、ふたりは声をかける前から、
元気のないわたしが気になっていたとのことだった。
その視線の先には教会があっても、
心の鏡にはまるで何も映っていないように見えたとも。
そのとおりだった。
視線の先の世界は、疑いなく存在していた。
けれど、その映像の焦点はどこにも当てられていなかったと思う。
まるで、隣人であるかのような質問が、口をついて出た。
「いいえ、ただこうして、ここまで一緒にお散歩をして、
お茶を飲むことが日課なの。」
彼女は緩めた眼をして言う。
「そうですか。素敵ですね、そういうのって。」
心からの言葉だった。
「ありがとう。あなたもそう思われる?」
「ええ、とても。」
本当に、そうしているふたりが幸せそうで、気持ちが潤んだ。
「あなたも、このそばで暮らしていらっしゃるの?」
ピノキオのおじいさんのような彼は、
にこにことして、大好きな妻とわたしの話しを包んで、
ただただ、そこにいる。
「いいえ、日本からです。観光者なんです。」
「そうなの。てっきり、住んでいらっしゃるのかと思ったわ。
少しアメリカの訛りだとは思ったけれど、とてもきれいに話すから。」
そう言う彼女の横で、彼も頷いた。
「ありがとうございます。光栄です。」
「はじめて?ここへ来たのは。」
「いいえ、2回目です。」
わたしは言った。「といっても、10年以上も前のことですけれど。」
「そう。でも、もう一度訪れてもらえて、嬉しいわ。とっても。」
彼女は、そう歓迎してくれた。
「その時と、ここの景観がほとんど変わっていなかったから、
わたしも嬉しかった。特に、この教会の辺りが。」
そう言って、教会の上のクロスを見上げた。
「そうね。情緒あるものを残しておくこの街を、私たちも気に入っているの。
それに、あの教会は、私たちが遠い昔に誓い合ったところで、
とても大切な場所だから、格別にね。」
彼は、そう言う彼女の手をそっと握った。
それは、あまりにも自然で、
気が遠くなってしまうようなきれいな光景だった。
そうして、気取りのない、やさしい会話を楽しんだ。
その中で、あの教会の引力が、この旅の動機であることも話した。
実際には何も起こらずに、あてどなくここでぼんやりしていたことも。
すると、ふたりは声をかける前から、
元気のないわたしが気になっていたとのことだった。
その視線の先には教会があっても、
心の鏡にはまるで何も映っていないように見えたとも。
そのとおりだった。
視線の先の世界は、疑いなく存在していた。
けれど、その映像の焦点はどこにも当てられていなかったと思う。