よりみち散歩。

日々の暮らしのなかで心に浮かぶよしなしごとを、こじんまりとつぶやいています。お役立ち情報はありません。

ウミサチヒコは悪者か?敵役を考える

2018年01月27日 | 読書
古事記のウミサチヒコ。

弟ヤマサチヒコを虐げる悪者のように思っていましたが
きちんと読み返すと、まったくそんなことはない!

弟のヤマサチヒコが
「兄ちゃん、互いの道具を変えようよ」と要求し
「大事なものだから絶対ダメ」
と拒否します。

それを弟がしつこくしつこく頼むものだから
「一回だけだぞ?」としぶしぶ大事な釣り針を渡します。



その後、弟のヤマサチヒコから
「釣り針を失くしちゃった」と打ち明けられ、激怒。

「代わりの釣り針をたくさん用意したから」と謝られても許しません。


…ウミサチヒコの怒りは正当なものですよね。

例えば「あなたの愛猫を貸して」のあと
「ごめ~ん、目を離したすきに、行方不明になったの。
似たネコを用意したから、これで勘弁して
と言われたら、大抵の人は許せないでしょう。

ヤマサチの行動は、思いやりのないものだと感じます。


…で「見つかるまで戻ってくるな」と言われたヤマサチヒコは
海の国に釣り針を探しに行き、そこでトヨタマビメと結婚し、
幸せに過ごしているうち、釣り針のことをすっかり忘れます。

バカだから。


そんな浦島太郎のような生活を続けていたある日
「そーだ、兄ちゃんに釣り針を返さなきゃ!」と思い出し、
海の神の協力を得て、それを取り戻すことができました。

妻の父(海神)も、婿に甘々で
「兄君に呪詛をかけておやりなさい」
とすっかり「被害者ヤマサチ支援の会・会長」です。

…だから、ウミサチヒコは悪くないんだってば。


しかし哀れなウミサチヒコは、呪詛のため
その後何をやってもうまくいかず、結局、ヤマサチヒコに攻撃を仕掛け
(でも海神がヤマサチを応援しているから)敗北します。

「この後、俺はお前のしもべになる」
と首を垂れる兄、ウミサチヒコ。


わがままな弟に大事な道具を貸し、それを紛失され、激怒したら
そのときの対応を逆恨みされ、人生をめちゃめちゃにされるとは…

なんと気の毒なウミサチヒコよ。不条理の極みです。


でもお気楽な愚者が、慎重な堅物より発展するストーリーは
現実生活でも珍しくありません。ある意味、リアルな話でもあります。



           


共感できる敵役は、けっこういます。

眠り姫の魔女もそのひとり。
自分だけのけ者にされたら、そりゃひがみたくもなりますもの。

敵役の目線で読むのも、また面白いものです。


舌切り雀のおばあさんにも共感できる♪