よりみち散歩。

日々の暮らしのなかで心に浮かぶよしなしごとを、こじんまりとつぶやいています。お役立ち情報はありません。

座右の銘「草枕」

2018年02月07日 | コラム
座右の銘は、佃煮にするくらいたくさんあるのだが
例えば、夏目漱石の「草枕」がそれに相当する。

下記の冒頭文を暗唱できるくらい読み込んでいる。

以前は「智に働けば角が立つ」という、
Aをなさんとすれば、Bという弊害が生じる
というくだりに共感していた。


最近は「住みにくい所をどれほどか、寛容げて、束の間の命を、
束の間でも住みよくせねばならぬ」に惹かれる。

世の中は住みやすいところではない。

その前提に立ち、しかし自身で努力してくつろげて
住みよくしなければならないのだ、という
ある意味覚悟のようなものが定まってきたからである。


ありとあらゆる美しいものは、非常時にはないがしろにされがちだが
心の滋養になる、必要不可欠なものだ。

花は心に余裕がないと、めでることができないという。

梅たよりが楽しみな、自身の心に安堵するこの頃である。



『草枕』



山路を登りながら、こう考えた。

智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。
とかくに人の世は住みにくい。

住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。
どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。

人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。
やはり向う三軒両隣にちらちらするただの人である。

ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。
あれば人でなしの国へ行くばかりだ。
人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。

越す事のならぬ世が住みにくければ、
住みにくい所をどれほどか、寛容げて、束の間の命を、
束の間でも住みよくせねばならぬ。

ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。

あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊い。




美は善なり♪