(『むくげ通信』256号、2013.1.27)
ゆうさんは、むくげの会http://ksyc.jp/mukuge/の会員です。2カ月に一度、『むくげ通信』(A4、カラー、28頁)を発行しています。
1月号(256号)に少し長いのを書きました。
以下にテキストを貼り付けます。PDFファイルは、
http://ksyc.jp/mukuge/256/hida-hyogo.pdfにはりつけています。そちらの方が、写真、図表の入って読みやすいと思います。
むくげの会は、毎月第1、3火曜日に神戸学生青年センターで勉強会を開いています。午後7時から・・。のぞき、ひやかし歓迎です。事前に飛田hida@ksyc.jpまで連絡をよろしくお願いします。
<以下、テキストの引用です>
兵庫の在日朝鮮人史研究を再スタートさせましょう
飛田雄一
●はじめに
在日朝鮮人史の研究はそれぞれの地域で研究が進められている。そのなかでも兵庫県の研究は、進んでいる方ではないかと思う。本報告では、このテーマでの成果についての整理をおこないたい。あわせて最近出版された本のなかから兵庫県に関する記述を取り出して従来の研究を補充する資料として紹介し、兵庫の在日朝鮮人史研究を更に進めるためのきっかとしたい。
●兵庫の主な刊行物
兵庫県の在日朝鮮人史に関する単行本として、以下のものが出版されている。発行年順に紹介する。その他、論文と阪神教育闘争に関する本については省略する。漏れているものがあれば補充をお願いしたい。
① 兵庫朝鮮関係研究会(以下、「兵朝研」と記載する)『兵庫と朝鮮人―祖国解放40周年を記念して』ツツジ印刷、1985.9
② 金慶海・徐根植・宋成一・鄭鴻永・洪祥進『鉱山と朝鮮人強制連行』明石書店、1987.8
③ 兵朝研『地下工場と朝鮮人強制連行』明石書店、1990.7
④ 金慶海, 堀内稔『在日朝鮮人・生活擁護の闘い: 神戶・1950年 「11.27」 闘争―神戸・一九五〇年「11.27」闘争』神戶学生青年センター出版部、1991.9
⑤ 朝鮮人強制連行真相調査団『朝鮮人強制連行調査の記録〈兵庫編〉』柏書房、1993.10
⑥ 兵朝研『在日朝鮮人90年の軌跡 続・兵庫と朝鮮人』神戸学生青年センター出版部、1993.12
⑦ 鄭鴻永『歌劇の街のもうひとつの歴史―宝塚と朝鮮人』神戸学生青年センター出版部、1997.1
⑧ 堀内稔『兵庫朝鮮人労働運動史八・一五解放前』むくげの会、1999.2
⑨ 『兵庫のなかの朝鮮』編集委員会『兵庫のなかの朝鮮』明石書店、2001.4
⑩ 兵朝研『近代の朝鮮と兵庫』明石書店、2003.11
⑪ 神戸港における戦時下朝鮮人中国人強制連行を調査する会『神戸港強制連行の記録』明石書店、2004.1
⑫ 神戸港における戦時下朝鮮人中国人強制連行を調査する会『アジア・太平洋戦争と神戸港―朝鮮人・中国人・連合国軍捕虜』同会、2004.2
⑬ 兵朝研『兵庫の大震災と在日韓国・朝鮮人』社会評論社、2006.12
⑭ 篠山市人権同和教育研究協議会『デカンショのまちのアリラン―篠山市&朝鮮半島交流史 古代から現代まで』同協議会、2006.12
⑮ 兵朝研『兵庫の大震災と在日韓国・朝鮮人』社会評論社、2009.12
⑯ 徐根植『鉄路に響く鉄道工夫アリラン 山陰線工事と朝鮮人労働者』明石書店、2012.5
⑰ 高祐二『韓流ブームの源流 神戸に足跡を残した韓国・朝鮮人芸術家たち』社会評論社、2012.6
他にブックレットとして、以下のものも出されている。
⑱ 神戸電鉄敷設工事朝鮮人犠牲者を調査し追悼する会『神戸電鉄敷設工事と朝鮮人労働者<資料集>』同会、1993.7
⑲ 神戸電鉄敷設工事朝鮮人犠牲者を調査し追悼する会『鉄路にひびくアリランの唄―神戸電鉄敷設工事と朝鮮人―』同会、1996.11
⑳ 西宮・甲陽園地下壕を記録し保存する会『よみがえれ 緑の春―西宮・甲陽園地下壕ガイドブック―』同会、2000.7
21 加西市教育委員会『加西・鶉野飛行場跡(旧 姫路海軍航空隊基地)』同会、2011.3(朝鮮人についてほんの少ししか触れていないが紹介しておく)
また、マップとして、以下のものが在日朝鮮人史にも触れる形で出されている。
22 ひょうご解放・人権研究所『人権歴史マップ【神戸版】』同研究所2005.9
23 同『人権歴史マップ【丹波編】』同研究所、2007.7
24 同『人権歴史マップ【阪神編】』同研究所、2008.12
25 同『人権歴史マップ【播磨編】』同研究所、2009.11
26 同『人権歴史マップ【丹波編】』同研究所、2011.11(※⑯の改訂版が神戸と淡路をあわせて近く刊行される)
27 兵庫県教職員組合宝塚支部平和教育部会『ピースマップ宝塚』同部会、2010.12
28 同部会『ピースマップ宝塚 別冊資料集』同部会、2010.12
29 神戸平和マップをつくる会『平和マップ 兵庫区』同会、2012.11
30 同会『平和マップ 長田区』同会、2013.1
ご覧いただければ分かるように、兵朝研がこの間、兵庫県の在日朝鮮人史について精力的に調査・研究し、その成果を刊行してきた業績が大きい。また、兵朝研、むくげの会、神戸学生青年センター、兵庫県在日外国人教育研究協議会、ひょうご解放・人権研究所、兵庫県在日外国人教育研究協議会などのネットワークがよく保たれておりそれぞれの研究成果が相互共有されている。
●兵庫の強制連行研究
当初、兵庫県の朝鮮人強制連行に関する研究は朴慶植先生の『朝鮮人強制連行の記録』(未来社、1965.5)にちょくちょくでてくる「兵庫」の項目を調べていくということから始まったのではないかと思う。強制連行研究は、まず朝鮮人強制連行真相調査団が全国的に調査活動を行った。その兵庫県の研究成果が、④朝鮮人強制連行真相調査団『朝鮮人強制連行調査の記録〈兵庫編〉』にまとめられている。私もこの調査にも参加させていただいて、加西市の鶉野飛行場跡などに出かけた。特にここは、私が卒業した神戸大学農学部の農場があるところで、1年間通った農場のまさに敷地内に高射砲の跡が残っていて大変驚いた。(『むくげ通信』127号、1991.7、「神戸大学農場に朝鮮人強制連行跡を訪ねて-兵庫県加西市・鶉野飛行場跡-」)
また1990年名古屋市で始まった「朝鮮人・中国人強制連行・強制労働を考える全国交流集会」は、第2回兵庫県(西宮市、神戸市、1991年)、第3回広島県(呉市、1992年)、第4回奈良県(信貴山王蔵院、1993年)、第5回長野県(長野市松代町、1994年)、大阪府(高槻市、1995年)、第7回岐阜県(岐阜市、1996年)、第8回島根県(松江市、1997年)、第9回石川県(金沢市、1998年)、第10回(熊本市、1999年)と開催された。全国世話人会が主催する交流集会は、1999年、10回で一旦終了し、その後は、有志が呼びかける形で、2000年(神戸)、2002年(秋田県花岡)、2004年(北海道)、2006年(韓国・済州島)で開催された。
この交流集会には朴慶植先生も生前に欠かさず参加されていたが、全国の調査グループ・個人は、兵庫と同じように『強制連行の記録』に自分の「県」を探し、その場所にでかけて調査をスタートし、まとめるという作業であったと思う。また、1993年の奈良交流集会のときには、「厚生省名簿」が公開されまとまった形で名簿が入手できたことにより調査が更に前進した。
その厚生省名簿は、故・金英達が精力的に分析し、④朝鮮人強制連行真相調査団『朝鮮人強制連行調査の記録〈兵庫編〉』に、「一九四六年の『朝鮮人労務者に関する調査』の兵庫県分資料について」、⑤兵朝研『在日朝鮮人90年の軌跡 続・兵庫と朝鮮人』に「一九四六年『厚生省名簿』が日の目を見る―兵庫県分一万三千余名のリスト―」を書いている。その分析によれば名簿は16県、66,941人分であるが、完全なものではない。名簿本体は失われたようだが、たまたま第二次集計分(?)が残ったようである。そのうち兵庫県分は13,477人で最も多い(この数字は記者発表のもので金英達が実際に数えた数は13,430人)。2番目は長崎県10,749人、3番目は佐賀県10,414人、4番目は福岡県7,007人となっている。北海道の名簿は1件も残っていないし、炭鉱の多い福岡県がこの数字であるはずがない。兵庫県の役人の仕事が遅くて(?)報告が遅れたので紛失を免れたのではないかと想像されている。
金英達分析のもうひとつの重要な点は、厚生省名簿(=『朝鮮人労務者に関する調査』)の実相に迫ったことである。1990年6~7月、兵朝研が『特高月報』、「社史」、新聞記事などから強制連行をした可能性のある28社に「朝鮮人強制連行者の名簿及び連行数の公表を望む要望書」を送った。2社から回答があったが、新明和工業株式会社(旧・川西航空機株式会社)が回答ともに提供された文書のなかに神戸勤労所長と県との交換文があったのである。この文書によって初めて厚生省名簿の作成経緯等が明らかになったのである。
(旧・川西航空機の文書。焼け残ったもの?)
神戸港関連の強制連行調査にもこの厚生省名簿は利用された。神戸船舶荷役148人については韓国側に調査を依頼し遺族を突き止めることができた。三菱重工業神戸造船所については1,984人分もの名簿に残っており生存者にインタビューすることも可能となったのである。その記録は、⑩神戸港における戦時下朝鮮人中国人強制連行を調査する会『神戸港強制連行の記録』に収録されている。
●竹内康人さんの強制連行関連全国的調査
先に紹介した全国交流集会の世話人でもあった竹内康人さんが、この間、強制連行関連の全国的な調査を行い次の3冊の本を出版した。全国交流会では、各県ごとに調査を積み上げ全国的な強制連行一覧表をつくろうという計画が進まないなかで、しびれをきらした(?)竹内さんがひとりで全国の調査を行った形だ。おおいに敬意を表したい。
31 竹内康人編著『戦時朝鮮人強制労働調査資料集―連行先一覧・全国地図・死亡者名簿―』神戸学生青年センター出版部、2007.8
32 竹内康人編『朝鮮人強制労働企業 現在名一覧』神戸学生青年センター出版部、2012.2
33 竹内康人編著『戦時朝鮮人強制労働調査資料集2―名簿・未払い金・動員数・遺骨・過去清算―』神戸学生青年センター出版部、2012.4
(連行先一覧表の神戸市関連部分、ここでは、略)
当然のことであるが、これらの本のなかには兵庫県のものが含まれている。(30)『資料集』は、連行先一覧の2735社のなかに兵庫県関連が140社ある。上図はその一部神戸市の26社をコピーした。最後の列の数字は引用文献で、1の厚生省名簿が一番多いが、その他の刊行物からも丁寧にひろっている。そこに収録されている兵庫県の地図が1頁のものである。南海岸地域の企業が多いのがみてとれるが、その他兵庫県全域に広がっている。
(32)『朝鮮人強制労働企業 現在名一覧』は、(30)の「連行先一覧表」を基に現存企業を調査し、構成したものだ。企業ごとに集計されている。全1019の事業場のなかから三菱化学、三菱重工業の部分を以下に紹介する。三菱重工業神戸造船所には厚生省名簿に1984人の名前が残されている。
(33)『調査資料集2』は、名簿・未払い金・動員数・遺骨・過去清算についてまとめたものだが、兵庫については厚生省名簿の他に、旭日基礎工事 神戸、播磨造船所、三菱明延鉱山、三菱生野鉱山、峰山鉱山については、「警察逃亡者名簿」が残されていることが示されている。また、厚生省名簿に126人の名が残されている住友電工伊丹製作所については、別に「新規被徴用者名簿」に22人の名前が記されているとのことだ。比較検討してみることにより新しい事実がでてくるかもしれない。
未払い金については、近年新しい資料が次々と見つかっている。私も共同代表のひとりとなっている強制動員真相究明ネットワークが、①大蔵省『経済協力 韓国一〇五 労働調査 朝鮮人に対する賃金未払債務調』、②労働省『朝鮮人の在日資産調査報告書』、東京法務局『金銭供託受付簿』などである。これらの資料を整理して一覧表が作られている。その兵庫県関連を5.6頁に再録した。96社ある。初めてみる企業名もあるので、ぜひ関連情報をご存じの方は教えていただきたい。更に、5万円近い未払い金のある企業158社を挙げているが、その中に次の6社がある。竹内さんの調査に感謝しながら、兵庫のいくつかの企業について、これまでの資料を総合的に突き合わせる研究を兵庫グループで行いたい。
(●附録)
長澤秀さんが編集された次の資料集は、全国の解放直後の在日朝鮮人数に関する新しい資料だ。本メインレポートでは、長澤さんもものも紹介するつもりであったが、遠慮して(?)割当を6頁と申請したこともありできなかった。分量も多いので別の形で紹介したい。
34 長澤秀編著『戦後初期在日朝鮮人人口調査資料集1』緑蔭書房、2011.12
35 長澤秀編著『戦後初期在日朝鮮人人口調査資料集2』緑蔭書房、2011.12
<以上、引用終了です>
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