悲劇、将軍の行方
第七話 [出陣]
ここは岩木岳の麓、稲田村である、村といっても二十ほどの農民が集まった集落である。
仁太の家はその村でも一番はずれの方にあった。
仁太は、ばぁさまと二人暮らしである。
仁太にとって、ばぁさまとは、自分が気がついたときには、もうすっかりばぁさまで、両親のいない仁太にとっては、育ての親であり、遊び友達でもあり、
それに村一番の物知りであった。
村人は何かあるごとに、この仁太のばぁさまを訪ねては、あれや、これやと聞いていった。
そんなばぁさまを誇りにおもっていた。
仁太は昨日の事を話した。
[ばぁさま~、わがるがい?鬼の住みか。]
ばぁさまは少し考えて、
[仁太、おめー、鬼みてぇんだが?]
仁太は
[うん、次郎丸様にたのまれだんだ。
オラなんだが、、、探してあげたくなったんだ、約束もしたし、、、]
ばぁさまはそれ以上は何も聞かなかった。
この村にもすでに将軍様を殺めたのは鬼だという話は聞こえていた。
その事であろう
それよりも、甘えん坊で自分の事しか考えなかった仁太が、はじめて人の為に何かしようとしているのである。
ばぁさまはその事が嬉しかった。
[仁太、大変だぞ、遠いんだぞ、おっかねぇんだぞ!
生きて帰ってこれねぇがも知れねぇんだぞ!
それでもいいんだが?]
仁太は
[ばば様、男には、行くな行くなと言われても、いかねばならぬ時がある!
熱く燃えるこの命、ばば様、これはあなたから受け継いだものとおもうてくれい!!]
仁太はまた侍口調になっていた。
それから
ばぁさまから聞いたことを忘れないように(仁太は字が書けない)何度も何度も繰り返し口ずさみながら、次郎丸の元にはしったのだった。
うすぐらくなった山の麓には牡丹の花が咲いていた。
つづく
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