悲劇、将軍の行方
第八話 [鬼神槍]
仁太は町に戻り、人をかき分けていた。
町中の人達は皆、将軍家のほうへ集まっていた。
次郎丸が将軍の位を引き継ぐ事になり、そのための式が行われていた。
皆、次郎丸の晴れの舞台を一目見ようと群がっているのである。
集まる人達を、あくせく整理している男がいた。
文衛である。
文衛は人混みの中で泳いでいる仁太を見つけた。
[おぉ!!仁太殿!!こちらでござる!こちらでござる~!]
町人達はさっきまで屋敷の前で[ここより先はだめでござる]
と声を張っていた、よりき文衛が、みたかんじ15、6さいぐらいの、つぎはぎだらけの着物を着た少年を引き入れるなど、、
あたりは静まった。
驚いた町人達は仁太の前をあけた。
仁太はすこし、いい気持ちになった。
屋敷の中に入ると式はちょうど終わるころだった。
一体何人ぐらいいるのだろうか、百人ぐらいだろうか、よくはわからなかったが兎に角沢山のお侍様が皆頭を下げていた。
その横をそろそろと前の方にいってみると、最前列には、蔵三、鷹滋、冬力の三人が居た。
そしてその少し離れた所に次郎丸が侍達と向き合って居た。
緑色と黒色で出来た鎧を背にして、手には大きな槍をもっていた。
蔵三が
[これにて次郎丸様の第12代将軍即位の儀、終了いたしまする。]
と、大声で言った。
将軍次郎丸の誕生である。
仁太はこのような場所に自分が居ることに嬉しくて震えた。
次郎丸は兄から受け継いだ槍[鬼神槍]をまじまじと見ながらこれからの事を考えていた。
素直に喜べる訳がないのである。
自分は生涯かけて兄の補佐をするつもりであり、そしてその次の将軍になるであろう、兄の妻である、艶子のお腹の中のまだ見ぬ若君をこの命果てるまで、、
と、おもっていた。
まさか、自分が将軍になろうとは、、
だいぶお腹のおおきくなった艶子が悲しそうな目で次郎丸を見ていた。
つづく
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