悲劇、将軍の行方
第六話 [鬼]
いくら欲しいのだ?それよりも貴様が見たと言うものこそ本当なんであろうな!
次郎丸は声を荒げた。
しかしこの男[あの~たしか~、、いやいや、う~ん、なんというか~]
と、酔いがまわってらちがあかない。
少々短気な所がある鷹滋が
[おい!貴様!!]と、その男の胸ぐらを掴み障子ごと表に放りなげた!
投げ飛ばされた男はそのまま、う~んう~んとうなっている所に、すかさず鷹滋は桶いっぱいの水を浴びせた!
バシャッとやられたその男!
[うひゃっ]となり、正気を取り戻したとたん!
[鬼だ!鬼だったんです!オイラはじめてみただす!ほんとびっくりしちまってよ~]
皆、顔を見合わせた。
[鬼?]
ここに居る誰もが見たこともなく、4年前ごろ[山の麓で鬼が出た]という噂がひろまった事はあるが、あくまで噂。
誰もがそのうち忘れていったのだ。
[詳しく話せ]
冬力が低く言った。
男は正しく膝をおりかしこまって話はじめた。
[オラ、岩木岳の麓で百姓しております仁太というもんでごぜぇます、
あの日は町に野菜なんかを売りに来て、結構うれだもんで、そのまんま仲間と飲んだんです。
そんで朝になりかけころ家さかえるべと町の入り口まできたときです。
なんだか朝靄のなかからおっきいものがのっしのっしど歩いてきたのです。
なんだべとおもってだら、真っ赤な体した大男、頭にはなんだか布をまきつけておりましたが、かくしきれるものではない大きな角が見えておりました。
オラはもう恐ろしくて、草木の中に隠れたわけです。
そしたら、その大男は町の入り口に手のひらにあったものを置いて、またのっしのっしと朝靄の中に消えていったんです
オラは何を置いたんだべ?と見に行ったら、それが、なんと、、、将軍様だったわけで、、
もう、なにがなんだがわがねぇぐなって
そのままここへきたのです、
ほんで叫んだ!
しんでら~!将軍しんでら~!
町の入り口でしんでら~!]
確かに、次郎丸はあの日、その声で起きたのだ。
次郎丸が言った。
[仁太とやら、それが鬼だというのか?]
仁太は[間違いねぇす、オラ目だけはいいんです]
[ならば兄を殺したのも鬼だと?]
[う~ん、んだとおもいますけんど~]
次郎丸はまさか?鬼?
だがこの男、銭ほしさの為にここまでの嘘をつくともおもえぬ、
そして今この手がかりしかないのも事実!
仁太、おまえはいったいいくら欲しい?
[あの~、じゅ、十両ほど、、]
よかろう、
して、おまえはその鬼の住みかはわかるか?
[いんや~、オラはわがんねすけど、家のばぁさまだばわかるかも]
方法はなんでもよい、兵も出す。
なんとか探してはくれぬか!
見つけてくれさえすれば百両出そう!!
仁太!やってはくれぬか?
[次郎丸様!男仁太!やってみせますとも!
次郎丸様にここまで言われて断ったとあらば百姓の名折れ!
見事みつけてみせましょう!!
いえ、もはや銭などいらんでござる!
御敵!あのにっくき鬼を打ちとりましょうぞ!!]
なぜか仁太は侍口調になっていた。
つづく
| Trackback ( 0 )
|
|