「最近ヌカ床にはまっているんです」
「ちゃんと抜け出してくださいね。体に匂いがついてしまいますから」
「・・・」
「ええ、その『はまる』ではないですよね。存じてます」
「突然どうした」
「思いついた事を言いたい衝動に抗えなくて」
「そうか、ストレスは溜めないようにな」
「気をつけます」
「一応あれだよ?野菜とか漬ける、あのヌカ床」
「はい、野菜とか発酵させる、あれですね。1日に1回かき混ぜないと酸っぱくなる」
「うん。健康な食べ物を簡単に食べたいなと思ってヌカ床買ってみたんだけど、あれは便利だ」
「準備するのも大変そうですが?そもそもヌカとかどこから調達するんですか?」
「俺も知らなかったんだけど、近所に健康食品店があってさ、そこにヌカ床キットってのがあったの。弁当箱より2回り位大きいタッパーに入ったやつ。ヌカもそのまま使用できるように付属されてて。買ったその日から野菜を漬けられる優れもの」
「へー。おいくらでしたか?」
「750円」
「あ、お手頃ですね」
「でしょう?」
「しかしまた変なとこに目をつけたというか、変わり種を買ったというか、変わり者というか」
「まぁ否定せん。店員さんにも『男の人でこれ買ったのあなたが初めて』とか笑われたし。でもいいよこれ。周りにも広めたいくらいだ。お前もどうだ?」
「どうと言われましても。どうなんです?」
「味はいいと思う。本格的なヌカ漬はあまり食べた事ないから比較できんが、これもうまいよ。きゅうりは1日、ナスは2日で漬かる」
「定番ですねその2つは」
「人参も漬かるけど時間がかかるらしい。大根はスライスして漬けてみた。こっちは半日あれば味ついたな」
「色々試してますね」
「そう。面白いよこれ。この前はチーズ漬けてみた」
「チーズ?」
「発酵食品だからイケルかなと思って。2日位漬けたらスモークチーズっぽかった。クリームチーズだったから少し癖が残ったのかもしれない。今度はベビーチーズとか使ってみようかな」
「・・・ほうほう」
「興味出てきたな?」
「面白いですね」
「でさ、チーズがスモークっぽくなった、要は燻製っぽくなったってことはだよ?肉とか漬けてもありなんじゃない?」
「何故その方向に行くんですか大人しく現状の道を歩けばいいじゃないですか」
「たまには『面白そう』って言葉に振り回されるのも一興ってものだよ?」
「それは酔狂って言うんですよ」
「そう考えてネットで見てみたらさ、実際に鳥肉をヌカに漬けるレシピがあったんだよね」
「マジですか?」
「残念ながら調理済みのやつ、蒸した肉だったけど」
「えっ。生肉入れるつもりだったんですか」
「無理かな」
「止めはしませんけど、腹壊すんじゃないですか?」
「そこはめっちゃ焼けば、ほら」
「めっちゃ焼いたらそもそもヌカに漬けておいた意味が無くなるくらい風味が飛ぶと思いますが」
「うーん。難しい」
「自分から難しい道に入ってるんでしょう。もっと単純なのやればいいじゃないですか」
「・・・。単純なのもやったんだけどさ」
「どうしました明らかにテンション低くなって」
「白菜をね。漬けてみたんだ」
「定番ですね」
「そのまま入れても漬かりづらいかと思って、ばらしてミルフィーユみたいに葉っぱ、ヌカ、葉っぱと交互に重ね合わせて」
「芸細ですね」
「1日漬けていざ食べようと思ってタッパー開けたら、とりあえずヌカが水だらけ」
「あー、白菜は水っ気が強いですからね。浸透圧で中の水分が外に出ちゃったと」
「水が出るだけならいいんだ。捨てればいいから。白菜についたヌカが取れにくいのが問題でさー」
「取れないって、一緒に食べればどうですか?」
「マジで言ってるんかい!ヌカ食ってる人も見た事あるけど俺はちょっと無理だよ!白菜についたヌカを落としてタッパに戻しての作業をしたけど、なかなか捗らなくて。結局ヌカごと洗って流した。ヌカめちゃくちゃ無駄にした。せっかく育てたのに・・・」
「あぁ、ヌカの量も限られてますものね。そう言えば無くなったらどうするんです?ヌカ」
「補充用で買えるんだよ。それは確か250円だったかな」
「お買い得ですね。・・・ヌカそのまま流しに捨ててるんですか?」
「うん」
「詰まりません?流し」
「詰まるね。片付け手間だね」
「農業の本で見ましたけど、ヌカをといた水って肥料に使えるそうですよ」
「ほんと?早速ペットボトルか何かに保管しよう。いい事聞いた」
「ところでそれ、どこで売ってるって話ですっけ?」
「あ、買うなこいつ」
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