「奴隷についてちょっと話したいんだけど」
「なりたいんですか奴隷に」
「人は皆何かしらの奴隷だ。いやそうじゃなく、最近読んだ漫画にあってさ。ありがちな奴隷のイメージ。大きな支柱に棒が等間隔で横に刺さってる器具。要はでっかいハンドルだ。あれを複数人で回してるじゃん。で、看守みたいのが『休んでないで回せーっ!』てムチ打ってるやつ」
「はい、はい、説明がアレですがわかります」
「あの器具って何?」
「・・・なんでしょう」
「何か意味はあるんだよね」
「意味も無いのに回してたらさすがに気の毒ですよ奴隷の人」
「生産性はなくただただ苦痛を生み出す機械。拷問器具じゃあるまいし」
「『回せー』ってハッパ掛けてる看守も相当シュールですよ。月並みに人力発電とかじゃないですか?」
「あの設備って大分昔からあるイメージがする。それこそ電気とか発明されるずっと前」
「よしんば発電したとしても蓄電池が存在していたとは思えませんしね」
「ちょっと工夫すれば垂直方向に力を変換できるよな。エレベーターとか?」
「直接引っ張るなり滑車を使った方が効率いいですって絶対」
「奴隷といったらピラミッド建設が連想される」
「ピラミッド造るのとあれに何の繋がりが?」
「石を運ぶとか?石に紐を巻きつけて、その紐が回転軸に巻き取られるようにして。ずるずる引っ張る」
「非常に効率悪そうですが」
「船の底でやってるイメージもある」
「櫂を動かすのはよく見ますが。それとごっちゃになってません?」
「そうだ、軸の下にドリルが付いていてさ、地面を掘削してるんじゃない?」
「掘って温泉でも見つけるんですか」
「わかった。ハンドルの上部にオルゴールが付いていてさ、回すと音楽が流れるんだよ。で、時の権力者がその音楽を聴いて悦に入るとか」
「発想が外道のそれですね。もっと現実的に考えましょうよ」
「さらっと俺をディスったか。現実的とか言ったらそもそもホントにその機械あるのかよって話になるからね?」
「無いんですか」
「イメージだって言ったじゃん。あ、現実的に考えて気付いた。あれって回す内側の人と外側の人だと絶対負荷が違うよね。内側の方が回しづらい」
「奴隷にも仕事内容に格差があるんですね。けど外側の方は歩く距離が長いですよ」
「世知辛いな。やっぱ生産性はないんじゃん?ただの見せしめ的な?」
「苦役を与えることそのものが目的の器具であると」
「苦役与えるなら疲れさすより普通にムチ打てばいいのに。看守も二度手間ですよあんた」
「わかった、これはコペルニクス的転回です」
「その心は?」
「あれは苦役ではありません。ダイエットです。健康づくりです」
「ムチで打たれてるんですけど」
「あれは『お前らダイエット頑張れよ!』という。いわゆる愛のムチです」
「看守はサイコなのかな?」
「痩せている人は負担の大きい内側で短距離を歩き、筋力をつける。太っている人は負担の小さい外側を歩き、距離を増やして有酸素運動。ほらきた」
「ほらきたじゃないよ。日々の食糧を得ることすら大変なのにダイエットな訳ないでしょ!」
「食糧?・・・食糧と言えば米、小麦。あ、巨大な石臼じゃないですかもしかして」
「石臼?」
「ほら、よくあるじゃないですか。小麦とか、貴方の好きな蕎麦とか引くやつ。石に棒をつけてくるくる回して」
「・・・。あーあーあー。はいはいはい」
「食糧の生産が目的なら奴隷を伴う国家の事業としてもしっくりきます」
「うぉう。正解っぽい」
「よし、有力な答えが出たところでネットで調べますか」
「石臼か・・・成程なー」カタカタ
「この答え自信あります」ドヤッ
「・・・」
「どうでした?」
「A.コロッセオ等で獣を搬入する為に用いるエレベーターの動力」
「・・・」
「俺が最初に言ったやつが正解じゃねーか!お前真っ先に否定したよな!」
「いやぁ、大分話が空回りしましたね。ハンドルだけに」
「うまくねーし!」
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