「え、なにこの犬」
「どうしたんですか?パソコン見つめて」
「二足歩行の謎生物がパソコンのデスクトップに鎮座してるんですけど。なんなの?隠れる気のないダイナミックなウイルス?」
「ああ、犬ですね。可愛くもないイラストですこと」
「何か表示してるな。プリンター?」
「ああ、ダウンロードしたプリンター用ソフトから年賀状印刷のおすすめ情報が送られてるんですね。犬はそのアイコンですか」
「そうか、来年は戌年だからね。随分わかりやすい位置に出て来たな」
「もう年越しまで1ヶ月。年賀状書く季節になりますね」
「なるほど。削除」
「いりませんか?」
「邪魔」
「存在感無駄にでかすぎますよねこれ」
「邪魔くささはどこかのイルカといい勝負だ。あれ、消えないぞ」
「選択肢が出てきました。『起こす』と『隠す』」
「いや、消えてほしいんですけど」
「身もふたもない」
「とりあえず隠す、と。よし、消えた消えた」
「プリンターメーカーさんもご丁寧な仕事しますね」
「いらないお世話ってんだこれは。確かに年賀状書かないといけないけどさ」
「送る人いるんですか貴方」
「仕事場と毎年送ってる友人何人か、だね。そもそもLINEだのネットだの連絡手段いくらでもあるこのご時世で年賀状ってのもなぁ」
「実際に書いて送ることに意味があるんですよ。こういうのは気持ちです」
「言っても宛名もメッセージもほとんど印刷だぞ?気持ちもくそもない。手書きだとめんどいし汚いし」
「そこは付き合いってことで。大人になりましょう」
「別に書かないとは言ってないよ。ここ数年は年末になってから急いで書いて送ってるもんな。元日に相手の所届いた例がほとんどない。今年はちゃんとやらねば」
「裏のイラストとか文章どうします?写真でも載せますか?」
「どうしようね。犬の写真って言っても、うち犬いないし。10年前に飼ってた犬の遺影でも貼るか」
「それは嫌がらせです」
「描くか、犬」
「描けますか?」
「人はそれなりに描けると自負してるけど。何、同じ絵だ。大丈夫」
「無難な感じになりそう。独創性とはかけ離れてるじゃないですか貴方の絵」
「二足歩行する犬とかどう?」
「どうじゃないですよ。新年から何やってんだこいつって思われるだけですよ」
「鉛筆で書くとインパクトないから筆で描こう」
「格好つけて筆で名前と住所書いて失敗したでしょ去年」
「じゃぁ色鉛筆で描いたやつをスキャンするか」
「ほんとに描くんですか?」
「なめんなよ。ラフでいいなら今すぐでもイケルって、待ってろよ」
「マジすか」
スラスラスラ
「ほらどうだ」
「・・・」
「・・・」
「無難です」
「やっぱりか。うーん。・・・そういや友達が犬飼ってたな」
「写真撮りに行きますか?あの狂犬の?」
「敵意剥き出しで吠えてる犬の年賀状はちょっとなぁ」
「嫌いな相手に嫌われる為以外の使い道無いですから」
「いざとなったらイラストやにお世話になります」
「フリー素材万歳」
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