「先日ビールをいただきました」
「さいですか。けどあなたビール飲まないでしょ?」
「そうなんです。家族にも飲む人いないから、処理に困るのが正直なところ。けどせっかくのご厚意だしね。開けてみた」
「どうでした?」
「一口飲んでみたけど、ホップが利きすぎて正直ないな、と」
「ほうほう」
「無理に飲むのも嫌だし、捨てるのも忍びない。そこで思い出したんだけど、ビールって料理の隠し味に使うじゃん」
「ええ、焼き物の仕上げにさっとかけたりしますが」
「でさ、何かでビールをあっためて飲む、みたいなことが書いてあったから、ちょっとそれやってみようと思って」
「ビールを温める、ですか、そうですか」
「麦スープ的なね?ちょっとうまそうじゃない?鍋にビール入れて、火にかけてみたんだ」
「嬉々として喋ってますがおいしそうな絵が浮かんでませんよ私」
「ビールってあれだね。沸騰すると泡立つんだね。考えてみれば当たり前だ。そんで、あったまったはいいけど、問題がひとつ」
「前提が問題だらけなんですけど」
「ビールって黄金色でしょ?で。あったかい。そして、泡立っている」
「・・・」
「俺たちは、これに似た液体をよく知っている!」
「その先言わないでもらえます?」
「もう食欲その時点で大分削られたさ、そりゃ。これいかんかもと。」
「普通に気持ち悪いんですが」
「ただね、これで引いたらビールがもったいないってことで、もう少し頑張ってみた訳よ。水を足して。スープっていうからには具も必要ってことで、ウインナーを入れてみました。ドイツスタイル」
「ビールとウインナーでね。安直」
「栄養バランスを考えてほうれん草も投入」
「バランスとかの問題だろうか」
「コショウとコンソメスープ入れて味を調えてみた」
「味の想像つかないです」
「あ、この段階で味見したら美味しくなかったよ」
「それはわかります」
「どうにも軌道修正できないと思いまして。奥の手を出しました。カレー粉」
「ああ、カレー粉。何をどう失敗しようが、最終的には無難な味に仕上がる抑えのエース」
「カレー粉を混ぜて、出来た料理がこれだ」
「うわ、持ってきてた」
「うわとか言うな実験台」
「さらっと実験台と言うかこの人」
「いっしょに食べてみよう。大丈夫だって。カレー粉入れればよっぽどの失敗でない限りリカバリーできるから」
「まあ見た目はおいしそうですけど」
「いただきます」
「いただきます」
「・・・」
「・・・」
「・・・マズ」
「・・・苦い」
「ビールの苦味が超利いてる」
「カレー粉でごまかせてないですよ・・・」
「他は普通のカレーなのに、ただただ、苦い」
「カレーを失敗するってどういうこと?」
「考えてみれば熱でアルコールは飛んでも苦味は消えないよね。あとカレー粉で苦味は消えない、と。うん勉強になった」
「予想できそうなもんでしょう」
「じゃあ、残さず食べようか」
「・・・」
「何?」
「・・・貴方結構馬鹿ですよね」
「何をいまさら。あ、そうだ」
「何です?」
「メリークリスマス!」
「男に言われても何にもうれしくありません!」
「プレゼントはこのカレーだよ!」
「『まずい』って自分で言ったでしょ!何が悲しくてせっかくの聖夜に野郎2人で残飯処理しなきゃいかんのですか!」
「カレーは失敗だったなぁ。よし、大晦日にリベンジだ。南蛮そばで年を越すぞ」
「せめて隠し味は日本酒にしてください」
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