le temps et l'espace

「時間と空間」の意。私に訪れてくれた時間と空間のひとつひとつを大切に、心に正直に徒然と残していきたいなと思います。

イスラム 癒しの知恵

2011年09月20日 | BOOK

●イスラムー癒しの知恵 内藤正典 著

「イスラムの怒り」に続き、第二弾です。この著者の良い点は、読み手の「イスラム教ってつまるところ何?私たちは単純にどう解釈すれば良いの?」という素朴な疑問を十分に汲み取って書いてくれているところです。「イスラムはこういうことだ。異教を理解しなさい」という一方的な感じはなくて、Q&Aを読み進めているような感覚です。日本人には信じられない価値観にも、なぜそういう価値観が生まれるのかを、すぐさま仔細に記述してあり、イスラムを道理として理解するには十分な解説です。

「癒しの知恵」とあります。この本が表現する「癒し」は二種に分類できると思いました。

ひとつは、生きていて行く道に悩んだとき、自分の欲との葛藤をもったとき、何か失敗してしまったときにムスリム(イスラム教信者)には絶対的な道しるべがあるということです。それはコーラン。コーランを読んだことはありませんが、この本から察するに、日常の生活について相当具体的かつ詳細に色々なことが定められているようです。でも、それは校則や社則のような「禁ルール」ばかりではありません。人間は弱い生き物だ、というコンセプトのもとで「ルールを破ってしまったときの償いのルール」も書いてくれているのです。ルールを破ったときの罰を定めているのではないところが面白いところであり、癒しにも繋がるように思います。日本人の感覚であれば、ルールを破れば罰が待っているだけです。反省したところで、更生するのも次に生かすのも自分次第。「努力と根性」の世界です。それが、ムスリムたちには罪の重さとその償いの方法を決めてくれている神が、いつもついているのです。なんと心強いことでしょうか。

もうひとつは、ムスリムの基本的精神は「ラハット」。訳するなら、「人を心地よくさせる精神」というふうになるようです。こちらはムスリムが施すほうの癒しですね。正直、ムスリムの精神にこういった感覚があるとは思っていませんでした。人を助け、人を心地よくさせることはムスリムにとっては至極当たり前のことで、逆にそういう扱いを受けてもとくにお礼は言わないそうです。日本だと嫌われてしまいそうですが、そもそもそういった感情を抱くことすらムスリムにとっては間違っているのかもしれませんね。

日本は今、希薄になった人間関係の再構築をやみくもに急いでいるように思います。そこに3月の大震災。人とのつながり、家族の大切さを再認識したとか、その流れで結婚する人が増えたとか・・・。それ自体は良いことですが、それをわざわざメディアが垂れ流しているところはどうかなと思います。感動的な話を放映し、コメンテーターが涙し、心理学者か社会学者がもっともらしく、ちょっとかしこそうに、その背景や深層を語り、「さて、次は週末の天気です!」という流れ。話題性が薄れれば、忘れ去られてしまいそうなその取り扱われ方。違和感があります。やみくもに急ぐものだから、何かそのとっかかりとなる事象が起こればすぐに飛びついて、必要以上に賞賛して、悪戯に使い捨てられてゆく・・・そんな気がします。そんなその場しのぎな価値観の押し付けではなくて、ラハットのように、壮大かつ絶対的なものに護られた万人に共通な「アイテム」があれば、小国日本など一気にまとまってしまうと思うのですが・・・。ムスリムが羨ましい限りです。



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