不定形な文字が空を這う路地裏

あの日、鋭角な翼のきらめき










お前の胸にある天使のことはよく覚えているよ、ひどく痩せぎすで、ギラついたまなざしの
針金みたいな細い骨にナイフのような羽根を従えた翼、そいつが羽ばたく度に
風は切断され猫のように鳴いた
灰色の雲の中へ
純粋は投身自殺
その夜にはひどくよどんだ雨が下界を濡らせた
どんな見返りがそこにあれば満足出来たと言うのだろう、指先に巻き付いてくる、世迷言のような予感は
どうしたって何かと比べられるようなものではなかったはずじゃないか
手遅れだったと気付く前に、どれほどの傷口を晒したんだい
誰かの痛みなんて決してリアルになんか色を変えたりしない、被告席に立つのか、冷たい土の下に行くのか
どいつも気にしてんのはそれだけのことだっていうのにさ
お前にはなりたくないよ、俺になって欲しくもないよ
天使には性別がないって、あれは本当なんだな、俺はずっと見上げて居たんだ
そこには愚かなものたちの背負う哀しみとは種類の違う
だけど確かに哀しみと呼ぶしかないようななにかがひっそりと存在して居た
宿命としての美しさはわずかな傷にも脆いとしたものさ
俺は愚かで生き延びてしまうけれど、いつか心が発熱し尽くしたあとに
蒸発して風に掻きつき、お前の胸に居た鋭い天使が落ちた雲を追いかける、死んでからいっとき
愛されたって仕方がないもの
憧れるのは汚れているからさ
果てしない真夜中の幕間で
聞き慣れた翼が
風を殺してる音がする、それが本当は俺を呼んでいるのだと誰かに吹き込んでもらえたら
そしてそれを純粋無垢な子供のように鵜呑みにすることが出来たらどんなに幸せだろう?
それだけで報われる事柄だってきっとあるはずさ
死んでからいっとき愛されたって仕方がないもの、お祈りなんて
生きてるやつの心を沈めるためにあるのさ
ねえ、愚かであるということは時として
メランコリックの崖っぷちに立ってるようなものだと感じることがあるよ
あの日落ちて行った
鋭角な翼の残像が
脳裏から剥げ落ちる瞬間がないんだ
忘れられない
忘れられない
忘れられない
忘れられないんだ
どうしてあんなに
まばたきもしないで
呼吸すら曖昧で
ねえ、いつかは俺も、風に爪を立てて
灰色の
雲の秘め事の中へ

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