白蝋病の脳下垂体が午睡の最中に揺蕩う夢は、可視光線の乱舞の中の血の華、難消化性デキストリンが渇いた腸を掻き回す、グリアジンの気紛れな呪詛、五臓六腑で踊り出す、偽造通貨が廃棄物処理場で網膜に焼き付ける断末魔は、電化機器の白濁から滲む蜂蜜色の油みたいで―ベズレーに残された御伽噺のような空、コルトレーンの戦慄の中で膿む、客車の制限された長距離列車の中で結合双生児は互いの望み通りに、そうさ、ドレスデンベッドにはまだ空きが無かった、看護師達はステンレスの洗面器を手に乱闘を始める、リノリウムの廊下はまるで人体の見本市だ、甲虫の群れは曲り角で休息を決め込んで青銅色の煙草を吹かしている、金属音めいた発声で喋る老婆は時折咽込みながら同じ言葉を繰り返す、袋小路の百鬼夜行、百足の背のようにのたうちながら―精魂尽きた鼠達は屋根裏で質感を失くし隙間風に消えていく、呼吸の中にきっと彼らの一生が混入していただろう、誰かの死を屠らなければ俺達は生きてはいられない、セルロイドで出来てるみたいな顔をするのはよすんだな、まったく見ちゃいられない…バス停に佇む幽霊の話を聞いたかい、なんでも若い女らしいよ、数日前にテレビ番組でそんなことを言っていた、突然、雨の音が聞こえてくる、そんな毎日が続いている、昨日隣家の屋根でこと切れた雀はいまだ死後硬直の中に居る、逝ってしまった時のままの目、和紙細工みたいに見える正真正銘の死、ピッチを上げる雨、魚眼レンズの内側のような世界、水晶体が砕けてしまわないかと心配になる、二度と取り戻せないものに対して俺達は鈍感過ぎる、いつだって―バリケードの内側では共食いが始まるものさ、世界イチ見苦しい食いカスがそこら中に散らばっている、鴉たちが大騒ぎしながらそれに群がっている、殺し合うものたちの悲鳴、お前達は望んでそこに居座ったのではないのか、選んだ道の先が栄光じゃないことなんか別に珍しくない、けれどそのせいで生命活動が途切れてしまうのならば、それはやはり間違いなのだろう、生きていること以外に自分を証明出来る手段などないのだ、ブリキの玩具を踏みつけながら野良猫が鳴いている、それはまるで吠えているように聞こえる、口元は血で汚れている、なあおい、なにを食った、鴉たちと仲良く味わったのか、なあおい、なにを食ったんだ…クラクション、衝突音、すべてが一斉に飛び立つ、置き去りにされたのは肉塊になってしまったやつだけさ、二種類のサイレン、二種類の肉体…原因が究明され、死は撤収される、俺は米粉で出来たパンを腹一杯になるまで詰め込んでいる、生きることについちゃ俺に聞くのが一番確かだぜ、ふうん、と窓のへりを歩いていた蟻が意外そうな顔をして一瞥をくれる、雷雨が始まる、地震の速報が入ったのは昨日のことだった、俺は気が付かなかった、でもだからってなんだって言うんだ、死なないのなら地震ぐらいどうってことはないさ―蟻は少し目を離した隙にどこかへ行ってしまった、なにしろあいつらはシンプルで小さい、窓の外側にほんの少しだけ珈琲を垂らしてみる、心ばかりの贈り物だよ、カフェインの香り、それは喉元を通過するものとはまるで違うものに思える、概念は破壊される、それはいつだって破壊される、ノーマルを美徳とする連中には耳を貸すな、あいつらは既製品と似たようなものを作って満足しているだけだ、カウンターでないのならカルチャーである意味もない、もうそんな根源的な部分のことさえも人々は忘れてしまった、そのことはわりと腹立たしい、どんなジャンルにだってもう、趣味の範疇以上のものはほとんど存在しないのさ、もうある線をなぞるだけでみんな満足してる、愚の骨頂だ、当たり障りのないものばかりが名前だけを変えてリリースされ続ける、もう誰も文化の中に閃光を探したりしない、それを時代性だというやつがいる、笑わせるな、レゾンデートルは時代遅れにならない、俺達が求めるものはどんな時代だって喉を掻き毟るような血の渇きのはずだ、火炎瓶に点火しろ、屋根の上からあたりへばら撒くのさ、愚かしい光景が火の海に包まれる、俺はその血を背負おう、指先を切り裂いて血の署名をしよう、口先じゃどうにもなりゃしないよ、お前は置いてきぼりの死体になった自分のことを直視したくないだけさ、バリケードを破壊しろ、燃え盛る炎を突っ切って、丸焦げの死体を蹴飛ばしながら、新しいフレーズのことを考えるんだ、夜明けが来たら真人間達の言い訳が始まるぜ、俺の根源、俺の跳躍、俺の詩情、俺の構築―死体の山の上に腰を下ろしてため息をつく、近頃は説明出来ない世界の話ばかりしたいのさ、御覧、夜が明けるよ…あいつを撃ち落とせるかどうか、ひとつ試してみることにしないかい…。