宿命は銃弾のように生身に食い込んでいく、それをペンチで引き摺り出すみたいに取り除くには相当な数のポエジーが必要になる、俺が馬鹿みたいに言葉を並べるのはその為だ、小奇麗でおしとやかな世界を偽造するためじゃない、知識や教養をひけらかすためでもない、ただただ俺は自分の中に渦巻いている嵐を吐き出して楽になりたいのさ、これは俺の感情の吐瀉物かもしれない、あるいは表現欲求の自慰行為なのかもしれない、でもそんな線引きを誰がどこでするというんだ?俺にはそんなことする気はない、もしもそうしたい誰かが居るっていうんなら好きにやってもらって構わないけど、それは俺が書いているものについて語ることになるのかな、そんな次元での話が俺の書いているものの確信をつくことが出来るとは到底思えないんだけど―ともかくさ、俺にとって書くということはそういうことなんだ、俺の脳内で、ひっきりなしに外へ飛び出そうとしている連中が居て、俺の頭蓋骨を内側からノックするのさ、冤罪で投獄された囚人みたいにね、ガンガンガンガン、喧しいくらいにさ、だから俺は集中度を上げて、指先を化物にしてそいつらを引き摺り出すんだ、不思議なものでそいつらは先を争ってぐちゃぐちゃに出てきたりはしない、入口が開かれればそれで気持ちは落ち着くみたい、順番にずるずると、テンポ良く出てくるんだ、それはきっと俺のリズムに乗っているからだと思うがね、ともかく俺は瞬間的にそんな連中に身体を与えていく、意味を持たせて、ワード画面の中に放り出す、意味はその前後に並べられたものと融合してそれまでにはなかった意味を作り出す、これは錬金術なんだ、物理的には不可能だろう、でも言葉の上でならそいつは可能なんだ、俺の純度はそこそこのものだと思うぜ、なんせ時間をかけて作り上げてきた手順というものがあるからね、頻度や速度、熱の扱い、これはひとつ間違えれば目も当てられない代物になる、結局のところ、本当に良いものを作り出すには初期衝動だけではどうしようもない、センスが良くたってノウハウがなければ息切れが早くなる、マラソンの特訓みたいなものだ、どんな呼吸がいいのか、どんな動き方が効果的なのか、そのコンデションを維持するにはどうすればいいのか―それは頭だけのことじゃない、身体で掴んでいかなくちゃいけないんだ、どんだけ頭でもの凄いことを考えていたって、それを目に見えるものにするのは自分の身体なんだからね…俺は精神を注ぎ込むための肉体を準備することを忘れない、歳のわりには悪くない身体だと思うよ、それは確実に書くものに影響するんだ、通電率が高いとでも言えばいいのかね?カテゴリ8のインターネットケーブルとか?とにかく大容量で速いことが大事なのさ、思考は常に渦を巻いている、一度取り損ねてもどこかで拾うことが出来る、一度に出来るだけたくさんのものを拾うことだ、それを言葉に変換する必要があるからこれだけの文字が必要になる、ある意味で俺がやっているのは、自分の肉体の中で聞こえている思考や音の翻訳なのかもしれないな、俺の言葉は俺だけのものだ、だからそんな工程が必要になるのさ、ある程度誰にでもわかる言葉に変換しなけりゃいけないんだ、でも、完全にわかるものにしてはいけない、そうしたら書きつける意味もなくなってしまう、ここからは俺だけのものだという一線を引かなければならない、もちろんそれは、俺にも誰にもわからないようにひかれなければならない、ここだなというのが見えてしまうとやはり意味はなくなってしまう、なぜ書くのだろうか?俺たちはその意味を説明したいだけではないだろう、少なくとも俺はそうだ、その中に潜む恐ろしい業のようなものに、促され意気込み時には戦きながら、目を血走らせて書いているのはなぜかという問いを、俺にもその他の誰にも手当たり次第に投げつける、俺がやっているのはそういうもののはずだ、といって、他の誰かが必要というわけでもない、やろうと思えば俺はそうしたことのいっさいをひとりで処理することも出来る、ではなぜそれは行われるのか?これは正直なところ、俺にだってわからないんだ、でも、別に意味を知りたくてやっているわけでもない、地図を手に入れたからといって世界を知ったわけではない、だろう?だから俺は俺の中で蠢く世界を、俺の中で流れ続けている譫言を曝し続ける、俺がそれを認識することに俺の書く意味がある、俺の生きる意味がある、他のいっさいのことはそれほど重要ではない、別に乞食になってどこかの廃墟で干乾びて死んだって構わない、そんな覚悟はもうずいぶん前に決めている、あの世に金は持っていけない、地位も名誉も、そうだろ?あの世に持っていけるのは魂に刻まれた詩だけさ、ひとつでも多く魂に植え付けて、あの世で神様に聞かせるのさ、神様が鼻で笑うか、それとも腰を抜かすか、それが俺がいま一番楽しみにしていることなんだ、もしも生まれ変わることが出来るなら、この人生の続きをやりたいな、取るに足らない人生には違いないけど、それでも俺は生きられる限り生きて、ここからどんなものが作れるのか見てみたいってずっと考えているのさ…。
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