晴天の空に爆撃の幻を見た、川に架かる大橋の上で…川面は誘爆のようにあちこちで煌めき、目覚めたばかりの俺の網膜を何度も刺した、西からの強い風が身体を煽り、まるで何かに急かされてでもいるように向こう岸に渡りきるとイカレているらしい若い男が腕だけのダンスを踊っていた、誰もその男に目を向けようとはしなかったが、俺はこっそりと「よう兄弟」と呟いた、男はまるでその声が聞こえたというような目をして一瞬俺の方を見たが、すぐにそれまでの動きに戻った、まるでそれだけがプログラムされたアンドロイドのようだった、考えてみればアンドロイドの特性はそんな連中の動きによく似ている、限定された模倣、限定された感情―限定された生、制限された―だけどそんなものに支配されない生きものなど何処に居るというのか?ただそれは特出して認識しやすいというだけのものなのだ、未来なんてドブに捨てるぐらいの気持ちになれなけりゃ本当の人生を生きることは出来ない、別に金を貯め込んだって詩を綴ることは出来ないぜ…繁華街は瞬く間に駐車場ばかりになった、アスファルトじゃなくて砂利を敷き詰めてあるタイプのやつさ、このご時世になにかしらの勝算を持った誰かがそこに目をつけるまでしばらくはそんな風に車たちの止まり木になる、道が、駐車場が、どれだけ増えても足りないくらいに車は増え続けている、朝と夕方のドライバーたちはいつだってイラついている、自業自得だよ、そんなものはとっくに終わってるんだ、ステイタスの更新が出来ない連中が同じものにしがみついてる、いつだってそうさ…まともに運転出来ない連中の為に自動で動く車を作ってまで、いったい誰がこんなくだらないものを増やし続けるんだろう?もしかしたらまだ誰もが数十年前の輝ける時代の幻を見ているのかもしれないね、バイタリティだけでなにもかもが成り立った時代、でもそんなものも結局は愚かしい思い込みだったんだ、そんな時代に生まれたことが幸運だったというだけさ、誰も彼も同じものを見つめ続けて進化を手放してしまった、同じところで足踏みを続けているだけで、歩いていると見せかけているような連中ばかりさ、まったく、反吐が出る…男は金だって言ったやつが居た、あれは三年くらい前の話か、じゃあ俺と同じ仕事をしている時点であんたは男じゃないんだな、と俺は思った、月に数万円の仕事だったんだ、いい気になるなよ、御大層なお題目を並べる前に自分の足元を眺めるんだな、あんたはいったい何を成し得たんだ?これは別に社会的な成功とかそんなものについて話しているわけじゃないぜ、自分自身の魂の求めるものを知って、そのために歩を進めたのかというような話なんだ、誰もがまず個人であることを忘れている、見栄や体裁を気にして、取り繕っていれば大人だと言わんばかりさ、「型にハマればいい」簡単に言うとそんな人生を生きて胸を張っているのさ、そんな連中の語る人生は、週刊誌に書いてあるようなものばかりだよ、やつらにとって情報は認識されるだけのもので、飲み込んで消化するようなものではないんだ、数年前までは営業していた商店の入口は自動販売機で塞がれていた、僅かに露出している窓の中には、薄暗がりで待ちぼうけを食らっているみたいな懐かしい棚が見えた、もう何度そんな光景を目にしただろう、終わった世界の終われないものたち、それは寂しさや哀しさではない、ただただ空虚なのだ、そしてそれは覗き込んだ連中に向かってアメーバのように伸びて、その空虚の中に引き摺り込んでしまう、知るべきだよ、俺たちみんな本当はからっぽなんだ、その前提のもとに、どうして生きるのかという命題を抱えているのさ、だから俺は殊更に自分を語ったりしない、それは嘘をついていることになるからさ、自分が何者かであるように見せたがる類の連中が居るだろう、やつらはただ自分の中にあるからっぽが怖いだけなのさ、だから必要以上に、そこに何かがあるみたいに装ってるだけなんだ、見たことあるだろ?ハッタリだけの狂犬とかさ…完全にからっぽだから、そこに歯向かおうとする人生が面白い、それが例えば、詩や音楽を残そうとする姿勢なんじゃないのかな、いつだってそんな意志を食らいながら生きていたいもんだ、中央公園の噴水がパッと跳ねる、俺は指先でその軌道を切ってみた、水は思いのほか冷たく、思わずすぐに手を引いてしまったさ、歩道橋に上って小さな街のメイン道路の端を眺める、週末とは思えないほど人を見かけないのはまだ時間が早いせいかもしれない、いつだってそうだ、こうして立ち止まっているといつでもとんでもない速度の何かが身体の中を駆け抜けていった、それが何かなんてもう知りたいとも思わない、だって多分そんな感覚はすべて、当り前に俺の中に居座り続けているものだからだ。
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