不定形な文字が空を這う路地裏

ラジオが死んだ夜

 

 

ずっと鳴らしていた真空管ラジオが

ブツッと言ったきり黙り込んだから

彼の代わりになるようなものを探しに

電気屋に出掛けることにした

駅の近くの大きな店

ウンザリするほど照明の眩しい…

 

売場のそばにある自動販売機の缶コーヒーは、必ず

欲しくもないのに買って飲んでしまう

後味が好きじゃないことだって

重々承知のこの頃では御座いますが

 

ビバークのポイントを探す遭難者のようにしばらく

ラジカセやラジオの陳列を眺めて歩いたけど

どいつもこいつもUSBだのSDだの

胡椒がウリのフライドポテトみたいなキャプションで

ずっと鳴らしていられるラジオが欲しいだけなのに

クリアーなデジタルなんてなにかいけ好かない

結局何も買わずに出てきた

 

部屋で沈黙しているラジオのことを

部屋で沈黙しているラジオのことを

 

人生で二十七度目に自分をぶち壊そうと考えた時も

思い留まらせてくれたのは彼が教えてくれた下らない歌だった

仕方が無いので夕食の買物をして家に帰った

 

どうして黙っているの

真空管は永遠のモノクロ

燃え落ちた空みたいに瞳を閉じている

どうにもやりきれなくて

殺意を込めて野菜を切り刻んだ、バツンって

まな板までいじめながら

 

出来上がったカレーは美味だったけれど

ラジオが死んでしまったから

スパイスが舌に針を刺した

 

 

 

 

二十八度目は

誰か助けてくれるだろうか


ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「詩」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事