不定形な文字が空を這う路地裏

White Albumの中ほどあたり









言葉を
信じることを止めた
栗色の瞳は


あまりにも空虚で
あまりにも
焦点を無くしていて
無味乾燥なその色に
引き込まれてしまいそうで



まずいことだと分かっていながら
目を逸らしてしまって
それでも
君はそこに座っていた
僕じゃなくてもいいみたいに
君じゃなくてもいいみたいに



それはたぶん否定で
そして行く宛のない哀しみ
終わり辛い自責と
肯定出来るはずの後悔
大きな窓から見える
急に色を淡く変えた九月始めの空を
言い知れない心の上に焼き付けながら


よくある別れ
落葉の少し前に
よくある別れ
なにも
考えられないくらいに
本当に口にしたいことは
本当にどうしようもなく
互いを縛り付けてしまうことだから


喉元は締め付けられる
泣きたいからではなく
泣かずに済ませようとしてしまうから
今日まで馴染みだった喫茶店の古いDENONのスピーカーから
スクラッチノイズ混じりのRocky Raccoon、いつかは指先で確かめていた


君はいったいどうするつもりなんだい、さよならを肯定するつもりなんか少しもないけど
声が詰まって
情けない感じになってしまいそうだったから
大人の振りをすることは止めて黙ってテーブルの上を見ていた



「なにか言わなくちゃいけないんじゃないかい」
胡椒の隣りの洒落た爪楊枝入れが
邪魔したくはないんだけどと前置きしながら口を挟んでくる
でも、駄目みたいなんだ、僕が首を振るとそいつも首を振って
ただの爪楊枝入れに戻った、苦い顔をした胡椒の隣りで


僕らはその胡椒で遊んだことがあったな、君、覚えてるかな―料理番組の真似かなんかしてさ―それから何度も僕はそのことを君に話そうとした



Birthday、の途中で君は席を立つ
どうしてそんな曲で
どうしてそんな曲の途中で?
半分だけ空席
半分だけこれからずっと



あぁ、Yer Blues、タフ・カクテルのようなYer Bluesが






大きな窓からの明かりをずっと切りつけている

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