不定形な文字が空を這う路地裏

それを手に取ると多分すぐに崩れてしまうだろう








放電の挙句の様な胸の内、安っぽい細工の壁に頭を擦り付けて
その接触がどんな風に成り立っているのかを確認しようとした継続する死亡時刻
吐き出す唾に血が滲むほどに叫んでいたらしい、だけど記憶には何も記載されていなかった―それはもはや俺が俺である理由も無いという事だ、普段なら見つけられないような場所に土蜂が巣を作り上げていやがった
この前殺虫剤でぶち殺したやつの生家だ…蜂の窒息には多少時間が掛かる、俺はやつが悶える様をじっと見ていた、初めてアダルトコンテンツに手をかけたローティーンみたいに
生きようとする羽根はいつも情けない音を立てる
眠りを疎かにし過ぎて、どうやら風邪を引いたらしい、明け方に見る夢はいつでもどこかに土がついていた―汚れた廃墟の階段や、見慣れない学校の裏口―そして俺はなぜかその踊り場に設えられた巨大な窓から
神の様な巨木がものも言わず立っている姿を見ていたんだ、緑が鮮やかだった、緑がとても鮮やかで―それでいてそれは鮮烈というほどに厚かましくも無く
どうしてだろう
そんな夢を見る時には決まって俺は何か損なわれた気持ちで居るんだ
損なわれた気持ちは複雑に絡まった糸の様で、どんなに解いても解いても解いても解いても原因が判らず
俺は苛立って―そういやなんだか出生を呪った様な気がするよ、もしも完璧な呪詛がこの世に存在するのなら
俺はこの身体にそれを降りかけるだろうね、物足りないパスタにタバスコをかける時の様な勢いでさ
そもそもこの俺を操っていたものが
夢の中に潜んでいたものか現実の中に潜んでいたものかの区別もつきやしない、ただただ焦燥感と―廃墟のガラスの無い窓の様な劣化があるだけだ
天気予報を信じていたんだろう、今日には晴れると信じていたんだろう、テレビで喋ってたそいつが気象予報士とかって名乗ったからって
どこの誰なのかもよく判らないそいつの言うことを安易に信用したんだろう、気をつけなくちゃいけないよ、この世には悪意でなくたって悪意に変わるようなものだって沢山ある、一番清く優しくあろうと心掛けるやつが一番鋭利なナイフを持ってることだってあるってものさ
俺は気をつけなくてはならない…話をきちんと聞かなくてはならないし、話をきちんと聞かないやつのことなんか信用してはならない
神の様に確かなものさしなどこの世には存在しない
夏のさなかからずっと体調はぶっ壊れていて何かを口にするたびに胃腸が暴れる、出力の調整がなってないエンジンみたいな感じさ、派手に飛び跳ねはするけれども前進する役には立たない…そんな気分はうんざりするほど味わったことがある
飛び降りたことも無いのにそんなになったような、足と腕が、頭がまるで
てんで役に立たない方向に折れ曲がった様な気がするのはどうしてなんだろう?もしかしたら俺はどこかから飛び降りた後なのかもしれないな、うろたえ過ぎてそのことを忘れてしまったのかもしれない
まあ、こんなのただの退屈しのぎの言葉遊びに過ぎないけどもさ…ただのジグソーパズルにだって妙に気に入るパーツがあったりするよな
イメージを大切にしているだけ、何かを伝えようなんて思っても居ない(その分だけ娯楽の味が落ちてしまうから)
これは何だい、俺はどうしてしまったんだい、突っ伏した床の上でポータブル、瀕死の間際の遺言みたいに量だけに重点を置いた下らない羅列、だけど、そうだ例えば
「記憶に無い」、なんて、こんな時間でこそ成り立つリアリティだとは思わないかね、そんなもっともらしい主張が出来ただけでもよしと思えるものなのさ―意味を探しちゃいけない、意味を探しちゃいけない、意味を探したりなんかしたらいけないよ、君、これは安い壁の細工の様なもので、さしたる理由も無しにこんな風に作られてるだけのことなのだから…珈琲を飲みに出かけたいのなら無理はしないで
こんなの雨の夜にだけ愛されるビニール傘みたいなもんだ
俺は土蜂の巣にパンチをくれた、懸命にこさえられた生存意義は粉々に砕け散って、部屋のそちこちに飛び散った、火薬の無い爆発みたいさ、俺は爆心地に手を当てたまましばらくの間ぼうっとして
バレリーナの様に滑らかに弛緩してゆく細長い蜂の事を思った、あいつはあの夜と今夜で二度殺されたのだ、それはまるでミサイルの被害の様だ俺のしたことはただノズルの根元のスイッチを押しただけなんだから
そいつは今逃げようとした窓の手前で焼け焦げたみたいな色になって干からびている、俺はそいつを小さな掃除機で吸い取るべきかどうかもう三日も悩んでいるのだ、そんなことをしたら死の項目がもうひとつ増えるみたいな気がして…だって
それが全て蜂に向かうものだなんて簡単には考えられないものな、あの夜は俺だってずいぶん殺虫剤を飲み込んだんだ―すぐに死なない限りは納得がいかないからさ…不思議なもんだな、ああいう時の絶対的な感覚って…ああくそ、なんて気分だ
焼け焦げた羽根が飛び立とうとしたみたいに見えた

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