不定形な文字が空を這う路地裏

いつだってそれは過去形で語られるものだろう


















望遠鏡の死骸
市街地に散乱
錯乱する警官
痙攣的発砲
こめかみを貫かれた売女は
突っ伏して死後硬直

うす汚れた銅像の見る夢
ハイウェイバスの疲労
ミルキーウェイの素っ気なさ
喀血を売りにする患者が
五階の窓から病原菌を撒き散らす
枯木に花を咲かせましょう
ここから掘れ

グラミー賞の後ろに隠れる
残虐な殺傷事件
キッチンペーパーに包まれていたのは
うんざりするほどのヴァギナ
ポリスが流れていた
スティングは好きじゃなかった

マネキンを生首にして並べるのが好きな十六のアミは
とうとうマネキンじゃ我慢出来なくなって
隣町で赤ん坊をさらってきて…
ひとつだけ確かなことは
彼女はもう母親になることは出来ない

アスファルトに残った血痕を
アクリルガラスについた傷を
あのベントレーのフロントが激しく損傷していることを
誰が知るだろう
あの家の勝手口のスライド錠が壊されていて
ひとり暮らしの老婆が頭蓋骨を砕かれて死んでいることを
世界はニュースペーパーなんかじゃない
それはいつも目に届かないところで動いている

バン、バン、バン、バルコニーに座って


想像上のライフルをぶっ放す
急所に当てる銃口がないから
俺は世迷言を綴り始めた
下らない見栄と
下らない取り合いの中で
肩をすくめて
お手上げのゼスチャーをして
バン、バン、バン、射出速度は如何かな
まだ錆びついちゃいないつもりだけど

忘れられた文学
忘れられた音楽
だけどそれはいまでも俺を生かしてくれる確かなものだ
ウッドストックなんてもう名前だけになっちまったけど
ただただうたわれる歌のことを俺は追いかけている
スノップな真似は時代遅れさ
完全な腑抜けになる前に
もう一度貪欲に求めてみるべきだぜ

灯りの消えた部屋の中で
ずっと眠れずにいると
棺の中で生きている気分になる
おお、蓋を開けてくれ
釘を打ち付けたのは誰だい
たったひとりきりの俺の部屋の中で
俺は目を見開く
暗闇の中に走る光は
直視出来ないほどに眩しいものだ

自分自身を愚弄しながら
人殺しよりはマシって程度の人生を
ウンザリしながら
唾を吐きながら
腐敗した曲がり角に鼻をつまみながら歩く
まだ酒が抜けない連中が
電柱にしゃがみ込んでる
やつらが身体から追い出した昨日を
チャップリンみたいに歩く鳩どもが啄んでいる

仕事のあとの指紋認証は
なかなか俺だと認めてもらえない
世の中はよく出来てる
いつだって誰かがなにかを教えてくれている
長いシャワーですべてを洗い流すまで
抱え込んだものは離れてはくれない
ナーヴァスなほど石鹸やシャンプーを使うようになった
そうしないと誰かに馬鹿にされる気がして

休日にラジオから流れるアルペジオは
輪廻について語っているような気がする
もしもそれが本当にあるのなら
俺は次の人生も俺として生まれてきたい
そう思わなくなったとき
きっと俺の今生は終わるのだろう
洗濯物を干しながら
物干竿にもたれて川の対岸を眺めていた
空は曇り気味で
天気予報は翌日からの雨について話していた

無駄なことを考えるのはやめようぜ
人生なんてハナからなんにもないものだ
好きに色を付けていけばいいのさ
それがなんだったかなんて後から考えればいい
生きているうちは永遠を信じる
嘘つきみたいな言いかただけど
もともと褒められた人間でもないさ

救急車のサイレンがじめついた街にこだましている
見知らぬ誰かの死も、親の死も友の死も
テレビに出てる誰かの死だって
俺の目に耳にとまるならそれは俺の死なのさ
俺が死ぬとき、俺は
俺の死を見るだろうか
コミカルな調子でふわふわと中空に浮かんで
俺の死を悲しむやつらを眺めているだろうか
出来れば大変な思いなんかしないでくたばりたいものだが
いつだって望み通りにことは運ばないものだ

気がつけば夏が終わろうとしている
蝉の声は
消えかけた入道雲を追いかけてゆくようだ

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