不定形な文字が空を這う路地裏

必要なものを必要なだけ










開かれた扉にはあらゆる意味があり、また、如何なる意図も無い
出入りも自由であり、また、戻るも戻らぬも自由である
選択とは本来そういうものであり、例外は存在せず、そして
それに含まれるたったひとつの条件は
「自分自身であるか否か」という点に他ならない
ごらん、勲章の無いものが英雄のように振舞っているが
誰も、彼の言葉に頷いたりはしていないだろう
それがどこの誰でも同じことだ、戦って勝ち得た首が無い限り
誰もそいつを崇めたりはしない


何のために生きてる?生業か?
それともそれがもたらす様々な恩恵が目当てか?
目的を見誤れば振る舞いがおかしくなるのは当然のことさ
舞台の周辺で他人の演目をあれこれ言ったところで
それがそいつの力量を示す目盛りになんかなることはない
舞台に立って声を上げることさ、それ以外に
なにかを伝達する方法など無いことを知ることだ
仮面をかぶり過ぎれば本物の皮膚が荒れて腐るだけだ
右手が頬から離れないのはできものを隠しているからなんじゃないのかい


朝のうちに長いあいだ降り続いた雨が午後からの太陽に照らされて
硬質な街角は水滴に彩られている
大道芸人が柔らかな動きでなにかを表現しているけど
オフィス街に近いそのあたりじゃ誰にも見向きもされない
でも彼はどこか遠くの国で拍手喝采を貰ったことがある
だから生まれた国でもそうして演り続けている
2セット幾らのスーツを着たサラリーマンの群れが冷笑を浴びせても
小蠅を見つけたかのようにちらりと目を動かすだけだ
水滴が彼の額に一滴落ちてくる、まるで聖書の一節のように


部屋の本棚にはたくさんの詩集と小説、心を形作ってきたもの
影響は素直に表すけれど模倣だけはしない
オリジナルという概念を甘く見ることだけはしない
身体を動かすにはたくさんの食物が必要になる、心だって同じことだ
必要なものを必要なだけ取り入れて先へと進むことだ
ひとつの概念を吐き出せばまた新しいものが滑り込むきっかけになる
余所見をしなければなにを食ったっていい
それが自分自身を作るのだということを忘れさえしなければ
誇り高き無能などになることは決して無い


失われた絵はもう一度描かれるために
失われた音楽はもう一度奏でられるために
失われた詩篇はもう一度綴られるために
運命によって損なわれた、僅かな機会のズレや
僅かな感情の至らなさによって
人生は失われたリズムをもう一度求めることに他ならない
それ以外のことはさほど重要なことではない
君は詩人が好きかい、もしも詩人とはなんてこだわりを持っているのなら
そんなものはいま書いている詩と一緒に丸めて捨てることだ


生まれて死ぬまでのあいだに僅かでも足跡が残るならそんなに幸せなことは無いだろう
ゴミ箱に捨てられた至らない詩はそうした結果しか語ることは出来ないだろう
確信を求めてはいけない、それは踏み出す爪先の死だ
「だからここでいい」という滞在理由みたいなものだ
なにがそれを決定付けた?先人の皮をかぶって出来上がった振りをしたいのか?
喋るほどに君自身の名前が掠れていることを知ることだ、塗り直してもまだらになるだけだぜ
生きてきたことを誇るよりも生きていくという意志を語ることだ
踏み出す爪先のためにすべてのことはあるのだから
視界を限定することでストイックを気取ってるなら物笑いの種だぜ


開かれた扉にはあらゆる意味があり、また、如何なる意図も無い
出入りも自由であり、また、戻るも戻らぬも自由である
選択とは本来そういうものであり、例外は存在せず、そして
それに含まれるたったひとつの条件は
「自分自身であるか否か」という点に他ならない
俺の胸には勲章など無く、また俺はそのことをよく知っている
だから英雄のように振舞ったりなどしない
そんなみっともなさをこれまでにたくさん見てきたから
出来る限りやることをやってじっとしているのみさ


舞台に立って声を上げることさ、存在を叫ぶならきちんとリスクを背負うことだ
失われた絵のために
失われた音楽のために
失われた詩篇のために
「その失われた流れに新しいものを繋げるのだ」と
確かな意志を持って宣言して見せることさ
いいかい、覚えておくんだよ
声を上げる場所は正しく選択しなければならない
開かれた扉にはあらゆる意味があり、また、如何なる意図も無い
出入りも自由であり、また、戻るも戻らぬも自由である、それは



間違いだと気付くことがとても難しいということだから

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