擦り切れた中指の軋む音を聞きながら吐いた唾に溺れ込む夜だ、晩夏の中に在りながら俺の胸中は氷点下に居るように震えていた、それは根本的な魂の渇望のノイズだ、ふたつの分厚い鉄板が擦れるみたいな鈍い音がずっと続いている、それを消すために俺は、もっと激しい音を産み出さなければならない、それは魂の奥底から産まれてくるリズムだ、それを歌うための暫定的なフレーズの羅列だ、目尻が血を流すほども見開いて見つけ出すのだ、けれど視覚的なものだけに頼るのは愚劣というものだ、たった一つの感覚だけで認識出来るものは入口に過ぎない、捕らえた現象はすべての感覚によって吟味され検分されて、初めてひとつの答えとなって飲み込まれる、分解され組み直されて初めて正確な受動となる、それはさらに分解されて吸収され、発動となって形を得る、最初の認識だけですべてを語ってはいないか?それは身近な誰かを「人間」としてでしか覚えていないのと同じことだ、もちろんその誰かが自分にとってどんな意味も持っていないのならそんな結論でも差し支えないけれど…答え合わせが必要ないほどの明らかなものほど疑ってみるべきだ、人間が何枚の層に包まれているかって、一度でも考えてみたことがあるか?すべてを確信しているのは間抜けだからさ―薄っぺらいハンバーガーみたいに少ない待ち時間で手に入れられるものを有難がるのはやめにするんだな、それはお前をあらゆる肉が弛んだ餓鬼みたいな醜悪な生物にしてしまうぜ…目を閉じると血の流れが聞こえるだろう、筋肉や弁の働きによって己の血液が心臓へと流れ込んでいくのがわかるだろう、その脈動と振動が捕らえられるかどうかだ、それが正しい意味での詩を産み出すのだ…とかくお手軽な世の中だ、一四〇文字で英雄になれると信じ込んでる馬鹿どもが送信ボタンをクリックしまくってる、見るに堪えない自己主張の博覧会だ、拙い言葉で語気荒く語ったところで伝えられるのはそいつ自身の拙さばかりさ、よく居るだろう、たったひとことを繰り返しているだけでなんとかなると考えているようなやつらさ―有名なオールディーズの風景みたいな、青天の中で落ちてくる砕けたガラスみたいな雨を見ながら数日を過ごしている、漫画以外に読んだこともないようなお粗末な連中が、俺の詩を読んでわかったような口をきいてる…俺は不味いものだとわかっていて口に入れる真似だけはしない、口の端で笑ってやり過ごすのみさ―それは地球の核よりも深いところにあるのかもしれない、俺はずっと言葉を使い続け、もっと底へもっと底へと書き続けてきた、土塗れになり光すら届かない場所に居ても次になにをするべきかわかっていた、次になにをするべきか?動きを止めないことだ、俺は俺だけを睨む、俺だけを憎む、俺だけを殴る、俺だけを殺す…アイワナベーキルミー、そうだろロットン、カテゴライズの馬鹿馬鹿しさの先に行かなけりゃ本当に欲しいものは手に入らない、いいかい、定義出来るものに真実なんてない、言語化出来ないけれど一瞬で理解出来るもの、真実なんていつだってそんなもんだ、そしてそれは生きてる限り次々と形を変えていく、着いてこいと…着いてこいとそう言っているんだ、俺はずっとそいつを追いかけてきた、血眼になって、息を切らせて…途方もない時間が流れた、過ぎてしまえばあっという間だった、本当にそんなものがあったのかと思えるほどにだ、残された時間のことなんて想像もつかないが、俺はきっと同じように挑み続けていくだろう、澱んだ目で定型文ばかり吐くような人間になりたくない、俺はいつでもてめえの眉間をぶち抜こうとしてるのさ、なあ、そうだろうロットン?詐欺にあったような気分なんて毎日感じているさ、俺は自分を騙すのが得意だからさ―闇雲に懸命さを売りにするのはよしなよ、そんなの本当に嘘つきだぜ、言葉さえあればいいだなんて、適当に誤魔化すのはよしなよ、言葉はお前のすべてから産まれてくるんだ、躍起になって、呼吸を止めずに、時には自分に反して、確かなものを築き上げてゆくんだ、他人のことなんて考えることはない、お前自身が作り上げたものがお前の気に入るかどうかなんて、いったい他の誰に聞けばわかるって言うんだい?俺は血眼になって新しい暗闇の中に飛び込んでいく、だけど時々は赤ん坊みたいに、ぺったりと座って欠伸を繰り返していたりもしてるんだぜ、わかるだろう、たったひとつ、そこに小さな穴が開けば、いままで覚えてきたことのすべてがそこへ向かって流れ込んでゆく、渦に飲まれて、いずこかへ放り出される、そうしてまた、ページの端っこを探して、どうにかこうにか捲っていくのさ…。
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