蒸し暑い晩夏の午後だった
そのとき、手に手を取って逃げ出した小さな街
明日に向かいさえすれば報われるのだと
俺たち、信じて疑わなかった
安くてウンザリするようなバイトにありついて
日々の暮らしを重ねて生きるだけで
あの頃は幸せだったけれど
時は人を疲れさせ
時は人を麻痺させる
部屋代を払うことにしか暮らしの意味が無くなったとき
申し訳程度に眼の下を濡らしてお前は出て行った
色を変えた沈黙に耐え切れず
スイッチをひねったラジオから流れてきたのは
あの日自分達を重ね合わせていたランデヴー
映画みたいだと確かにお前は言ったな
そうさ、俺達はずっとスクリーンを眺めていたんだ
ポップコーンとコーラを手に
都合よく現実を彩っていたのさ
猫の額ほどのリビング、無理して買ったレザーのソファー
俺達の夢が築き上げた
しがない暗闇を俺は見ている
沈黙は慣れれば居心地がいい
つけることを忘れているうちに
あの日のラジオは
もう
鳴らなくなっていた
故郷に帰ったか
街の狼に喰われたか
もう、俺の、知ったことじゃない
ないけれど
あんなに信じることが出来た
あの日の明日はなんだったんだろうって
時々
思い返すんだ
深く身を埋めて
眠りが
俺を馬鹿にする、その
その瞬間に
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