なんでもない時間に途方もなく冷たい切断を経験する
それはいわば想像上の己の肉体を巨大な肉切り包丁で切り刻むようなものであるが
じくじくと刃のすべる音がなんともそれ以上でどうにもやりきれない
眠ろうと目を閉じてはひどい回想に襲われたみたいに跳ね起きて
それまで見ていた穏やかな夢をすっかり忘れてしまう
なんでもない時間に途方もなく冷たい切断を経験する
鏡を覗き込んで自分がまだ生きているのかどうか確かめた
あー微妙なところだ、ひどく無駄に磨耗した肉体にありがちな廃れ方だ
かなり悪い女神が寄り添って生気を吸い取り続けている(性器ではない)
くらくらっと眩暈がしてベッドに戻る―言うなれば半ば強制的に
そうして初めてどうしてこんなへんぴな時間に目を覚ましたのか思い出すんだ
ほうら、かなり来たぜ、かなり強烈なのが
首を根元から切り落とそうと目を血走らせている、身体は動かない、不思議なことに金縛りだ
アーアー、俺は悲鳴を上げるが、喉の奥の方でしか反響しない、馬鹿みたいだ
やたらリアルな白昼夢の(真夜中だけど)、それともそれで本当に死んでしまいそうな気がする俺のこと?
どっちだろうと思う間もなく首筋に食い込むさっきよりもひんやりとした刃の感触、ちっくしょうめ、念入りに研いできやがった…!何とか身体をよじろうと力を入れてみるものの
見えない力で押さえつけられていてびくりともしない―いや、びくともしないってことはそれはそもそも力とは違う類の所為なのだろうな
じっくりと楽しむように刃は少しずつ引かれる、おお、なんという切れ味だろう!まるで筋肉の繊維を一本ずつ切っているみたいだ…自分の首じゃなかったらうっとりと魅入ってしまうよ、きっと
血管に近くなると甲高い警告音のような痛みが走る、人間の身体というのは―
非常に、よく、出来ている
なんでもない時間に途方もなく冷たい切断を経験する、生命あるものに滑らせているというのに刃はまったく温もりを持とうとはしない…それはまるで確固たる死の概念のようで
痛みはさておきそれが含んでいるさまざまなイメージのほうが恐ろしくて仕方がなくなる
俺がどうしてこんな目に合わなくちゃいけないんだい
本当の問いかけに神様は知らん振りをする、まるで一日中働いた後で突然の雨に濡鼠になるような心境だ
あぁー、もうかなり深くだ、間欠泉のように血液が吹き上げている…自分の首じゃなかったらさぞかし綺麗だろうな、いや―魅入ってしまったことは告白しておかなきゃならないかもね
やがて頚椎に到達する―ここからがとんでもない
内側を通っている大切な組織が壊れる、次第に悲しいとか悔しいとか―このまま俺はどうなってしまうんだろうなんて気分がピントを欠いたものになっていくのを感じて俺は観念した、こうなってしまってはもうどうしようもない
もうなにも感じない、もう何事も判らない、なのに…どうしてこんなにも悲しみが押し寄せてくるのだろう…それは何度目かの目覚めだった、現実味を夢に持っていかれた儚い現実の気忙しい幕開けだった、俺は枕を投げ捨て、ベッドを逃げ出し―首筋に残る血の後を見つける、夢に操られて引っ掻いてしまったのか?それとも…
それとも……
最近の「詩」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事