碧の彼方の、永遠の境界のほとりで
百万の言葉を閉じ込めて死んでいた旅人
唇は濡れていて、いまにも喋りだしそうなくらいに
瞳は多くの無念に倣い
研磨された宝石(いし)のように見開かれていた
哀しみだと悟ったところで蘇りはしない抵抗の無い肉体
その
ほどよく味わえそうなところは
名前の分からない鳥たちが生きるために使用していた
碧の彼方、巨大な雲のゲートの下で
彼らは奇妙な言語を吐いてばかりいる
聞くともなく
ずっとそれを聞いていると
不思議なことに
それは旅人の濡れた唇から
発せられているように思えてきてならないのだ
行きたいという思いは諦めることがない
滅びた旅人は
我が身を差し出し
転生して、碧の彼方を目指した
羽ばたきが彼を乗せて
無限を謳歌している、その独特のリズムで
地面に映る鋭角な影は
カレイドスコープのような残像を描く
新たな旅の形が、彼を震わせているのだ
紺碧のグラフィックス、観念的なヘブンの下で
似合わないほどに亡骸は崩壊し始めるが
鳥はいっそう激しく
空気を振り回していた
彼は見ているのだ、ここに至るまでの
おそらくは長い長い苦しみの軌跡を
弔いのように自己顕示的に
茜混じりの茶色い羽根がひとひら落ちた
それは
多分墓標と呼んで差し支えがないものだ
いま
彼は唄っている
その唄の題名を知る機会は多分この先もきっとないけれど
メロディは記録されるだろう
何時しか
最後まで濡れていた彼だったものの唇は
渇いて
砂漠のような模様を作っていた
それは
ごくごく自然な現象の一部に過ぎない
碧の彼方、永遠の境界のほとりで
彼は滅び、魂は
噴水のように空に舞い上がり
そして
もう
手の届かない
遠い何かに
くちばしを突き付けようとしていた
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