横たわる過去に手を添えながら眠った
まだあどけなさの残る女の汚れた横顔
真っ直ぐに純粋を求め過ぎてしまって
気づいた時には取り戻せないほどの傷みを背負っていた
溢れるほどの愛に彩られていたはずの
明かりを落としたワンルームの哀しさはどうして
手を伸ばせばすぐそこにあったはずの
穏やかさと力強さの同居した
神々しいほどの温もりの不在はどうして
気まぐれで買った名前も知らない魚を生かせるための
エアーポンプが水槽の端で静かに呼吸している
うんざりするほどの疲れが連れてくるまどろみで
(あんな風に循環することが出来ればよかった)と女はひとりごちる
上映が終わったスクリーンを思わせる明るさで
ブラインドの向こうをヘッドライトが舐めてゆく
私はとても豊かだった
信じているだけで手にすることが出来たものがいくつもあった
世界は光に満ち溢れていると感じていたのに
そのためにいくつもの真実を見落としてしまっていた
たったひとり
誰の肩にも手が届かなくなってからそんなことを自覚してももう遅いのだ
流行歌に踊らされる小娘のように
私は浮かれて乗せられていたのだった
眠りの中で見つめた景色の
その薄暗いこと情けないこと
虫の死骸が降り積もる大地を吹いてきた風を浴びるような気持だった
私の心の中に生まれたものだったから
目をそらすことも逃げ出すことも叶わなかった
機銃掃射のような
自分自身の罵倒を一身に浴びて
遅い朝に目覚めた時にはくたくたに疲弊していたのだった
洗顔をして
夜の間にこびりついた忌まわしいものを落としてから
水槽を覗きこんで乾いた餌をばら撒いた
魚たちは磁石に引かれる蹉跌のように集まって
穏やかなくちづけのように水に浮かぶそれを飲み込んでいった
彼らのうっとりと開くくちびるを見るたび
私はおかしくなってただただ涙を流した
眠りが足りないのです
誰をも阻むことが出来ない私のままで
私の過ちを隅々まで見定める為の時間が
受け止めきれないもののことが気になって
受け止めることが出来るはずのものまで取り落としてしまいます
眠りをくださいと願うことが正しいのかどうか判りません
私はきっと一度それを落としてしまっているのでしょうから
罪を感じさせない
小鳥が窓際で囀ります
彼らの声に続いて
ハミングをすることが出来たらどんなに楽しいことでしょうか
けれど私の不確かな
調整のとれない心のままでは
その声すら無様にかすれてしまうに違いありません
一人起き出しただけで空っぽになってしまう寝床
あそこに居たのはいったい何だったのか
きちがいのようになってどこまでも貪りあったのに
それがあったことすら夢のように思い出してしまうのは
結局のところ何も手にしてはいなかったのだろうか
ブラインドを開けると迷いの色が薄れてしまって
また、私の心は
夜まで
沈黙してしまうだけなのだ
最近の「詩」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事