不定形な文字が空を這う路地裏

冷たい溶岩流







無呼吸性の暗示が
一番脳に近い毛穴で
不快な韻律の
歌を刻むころ
次々と実を落とす
植物は塗り潰された
路上で乾いた
失血死の痕跡を思わせる色に
落ちた実を齧るとどんな
いたたまれなさが残るのかと
嗄れた喉で夢想し
そんな果汁で満たされた身体は
どんなふうに眠るのかと
どんな夢を見るのかと
器具で挽かれる食材の様な
予感がのたうつ五十八分
電波時計が入れ替える瞬間は
剪定の様に無情
故意に目をやる無灯の部屋
脳を抜かれた吾身の残像
大口を開けたさまは
まるでウツボカズラで
見え過ぎる影のようだ
動かない時間のせいで
そんな残像が消えずに残る
隙間風に揺れるカーテン
怖気ながら拒んでいるようなカーテン
あいつには確かに見えているのだ
毒を吐き散らかすなにがしかの影が
葉の裏に張り付いた
油虫の様に
断片的な感情が
無軌道に喘いでいる
ササササと
薄紙が擦れるような音が
それらのすべての関係を
ないものと結論付ける
粘ついた血を吐くように
春の始まりにはりついて
断片を握り潰し
得た塊は
発音出来ない声に似ていた
センテンスに罪があるなら
それは存在ということだ
脳を抜かれた吾身がこちらを見ている
センテンスに罪があるなら
それは存在ということだ
肉片を寄せ集めるように
新しいなにかを綴らなければ
どろりとしているものは
傷にならないダメージだけを植え付ける
動脈瘤が
たびたび誰かを殺すみたいに
こと切れる蛇の様な
速度で這いずりながら
重力を植え付けてゆく
心への過重は
どんな類の力でも軽くは出来ないのだ
無灯の部屋を形にするならそれだ
無灯の部屋を重さにするなら
寝床に逆に寝っ転がって
あらゆる流れに抗おうとした
足の場所にある頭には
踏まれる気分が判っていた
こめかみに針の痛み
脳を抜かれた吾身が
影に乗じて
圧し掛かってくる
横になるのを待っていたのか
嫌な音を立てながら
肉体の中に戻ってくる
紗幕が張られた心情が
細胞に染み込んでくる
リアルだ
明らかなものより
ずっと
真夜中の現実は鉤裂きだ
どこにもない爪を思わせる
その先端の
おそらくは血の滲んだ
黒さを
ああ
人が焼けた後に溜まる灰だ
きっとそんなものに似ているのだ
この粘つきは
この過重は
書かれぬまま幾年も過ぎた
白いままの頁の黒さだ
ウツボカズラのがらんどうだ
無灯の部屋に染み込む吾身だ
息が途切れないから時間を数え続けている
いつからか気づけぬままに
夜の残像の中で生きていたのか
まだ冷える空気の中の断片を
がらあきの口の中に落とし込みながら
動けない理由が金縛りをかける
凍てつく血管の示唆あるいは記憶
ありとあらゆるもののうねりが
脳下垂体で具現化してゆく
温かいものが砕けてゆく
眼球だけが明かりの見つけ方を知っている
こめかみの痛みは床の温度の記憶ばかりを語り
同化した肉体はさらに剥離していくもののことを語る
目を閉じるとそいつらの生み出す塵が見える
激しい雨の様にまだら模様が脳裏に新しい歪さを呼ぶから
だらんと口を開けて歯を合わさぬようにしているのだ
硝子の壊れる音が断続的に聞こえる
そんなものを拾い集め飲み込んでいかなければ
きっと新しい血液は巡ってはくれないのだ
舌の根が絞殺を感じている
澱み過ぎるといつだってそうなるのだ
縊死はもう記憶の中にある
切れた白色電球の様な目玉に瞼を被せてくれるか
そんな風にしか眠れない
そんな夜も必ずあるのだ

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