すべて夢だ
すべて夢だよ
俺達は
波打ち際の
白い泡みたいなもんだ
波が引けば消えてゆく
何も無かったみたいに
生まれて忘れられた
飢餓地の子供みたいに
現れては消えてゆく
現れては消えてゆく
そのかたちを
その思いを
懸命に残そうと試みながら
大きなものからみれば
まばたきに過ぎないようなそんな一瞬で
海底という暗闇に引きずりこまれているんだ
考えてもごらん
あれほどの水のたまりの中で
砂浜を目指す事が出来るのはほんの端っこだけだ
一瞬のために
一瞬のために
あの波頭たちはどれだけのときを漂ってきたんだろう?
俺達は
やつらの中のどの辺りなのだろう?
ずっと海底を見ていた
ずっと海底を
いびつな岩が不安定な輪郭を投げ出したり
イソギンチャクが
見るもおぞましい動作でそれでも生きるために魚達を絡め取っていくのを見ていた
ああ、俺もいつかは絡め取られるんだ
そう
思いながら
暗かった
光なんか届きはしない
光なんか爪の先ほども届きはしないんだ
闇よりももっと暗くて
何か話そうとしても
ボコボコと浮かんでしまうだけさ
海老と戯れたり
ヒトデを苛めたりしながら
海の底で生きてきた
浮上なんて
多分そのときは少しも思い浮かばない事だったんだ
ずっとそこにいるんだと思っていた、ずっといて
イソギンチャクの中で荼毘にふされるのだと
何故だ
どうしてなんだ
どうして浮かび上がってしまった
誰かの声が聴きたかったのか
それとも
知りたかったのか
自分自身が海底の岩のくぼみの
ちょっとした影なんかではないということを
浮上して
何を見るつもりだった?
今は判らない
波は寄せて返す
気が遠くなるほどのバクテリアという名のポエジーを
気が遠くなるほどのバクテリアという名のポエジーの亡骸を
気が遠くなるほどの
海岸線に
無造作に
無作為に
ただ
ばら撒きながら
最近の「詩」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事