不定形な文字が空を這う路地裏

それでも僕らはきっと祈りのために











僕らは虚ろな階段を
カモメのように
カメムシのように
ひらひらと
ごそごそと
やりながら
途方もない一段を
へろへろと
へろへろと
のぼる



適当なフィルムを
はりつけたような青空
それが
いつ
暮れるのか
なんてことは
誰も
知ることはなくて
便宜的に
設定された世界で
僕らは
虚ろな階段を
のぼる
わけの
わからない歌を
確信のように
ぶつぶつ
うたいながら



彼方に見えるは
いつか
過ごしてきた街並み
生まれたり
求めたり
あきらめたりして
過ごしてきた
雑食の世界
僕らはあそこに居た
便宜的な名前と
便宜的な肉体を
持って



階段の表面には
貝殻が敷き詰められている
進化の歴史を語るには
これ以上はないといったような
生意気な様子で
だから
僕らは
踏みしめる足を
容赦することが出来ず
ずっと疲れる
ずっとずっと疲れる
かなしい気分は
看板みたいに
額に
掲げてきたけど
こんなに
現実的なものではなかった



僕らの足は止まらない
僕たちは
もう
あきらめることは出来ない
一度
許されてしまったら
もう
あきらめることは出来ない



階段の上には祭壇があり
何らかの象徴が
鎮座ましましている
だけど
僕らはそんなものは
くだらないジョークみたいなものだと
とっくに
気づいているから
なにかにつけて
最上段を目指す理由を探しながら
のぼっていかなければならない
(例えばいまいましい貝殻を全部踏みしめるためとか)



祭壇はかがやく
きっと
あの祭壇には
燭台は無い
これでもかとばかりに
ホワイトアウトな太陽が
はばを利かせているから
あんなところで
蝋燭なんかに火をつけたら
きっと



立ってられないくらい
馬鹿にされるに違いないのだ



僕らは階段をのぼる
僕らは階段をもっとのぼる
実験の末に
本能を曲げられたマウスみたいに
僕らは
それをのぼりつづける
最上階がどうでもいいのなら
僕らには
理由がないはずなのだ
こじつけてまで
のぼる理由を
どうしても
僕らは見つけられない
少し先にいた
友だちがおかしくなる
笑いがとまらなくなって
せっかくのぼってきたものをはるか下まで転げ落ちてしまった
(もうあれでは誰にもどうすることも出来ないだろう)



ブリキ細工のようなカラスが
かんらかんらと笑いながら
友だちの靴をひろっていずこかへ飛んで行った
巣にでも使うのだろうか
ブリキのような身体に
ぬくもりは必要だろうか
僕らはカラスの背中を見つめる
もちろん果てしなく足を動かしながら
カラスはだんだん小さくなって
やがて小さな点になったが
そのあとも不自然なくらい
僕らの目には見え続けていた



下の方からアヴェ・マリアが聞こえる
信心深いお嬢さんが
そこらへんに居るらしい
彼女の歌声は大変綺麗だけど
風景にはいささか場違いなように思える
この場所に祈りがあるなんて誰も思っていないのだから



のぼりながら
転げ落ちた
友だちの名前を
僕らは考えた
だけど
誰にも
彼がどんな名前だったのか







思い出すことは
ついに出来なかったのだ

ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「詩」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事