不定形な文字が空を這う路地裏

夏に降りしきる雪の数を数えて







夏に降りしきる雪の数を数えて、思い出というにはあまりにもおぼろげ過ぎる
いくつかの出来事が凝固したさま
不思議なほど気持ちを持つことが出来なくて、焦熱の波打ち際でぼんやりと
異質なものが踊るのをずっと見ていた
不安定な足元は波が
すうっとなぞるたびに沈んで
声にもならないものを片っ端からさらっていった、さようなら
あれは誰に向けてはいた言葉だったろう?いつも、どんな時でも
こっそり別れを告げることが誰よりも上手だった
夏に降りしきる雪の数を数えて、一番確かなものはまぼろしなんだ
波の呼吸に合わせて息を吸うと
心情が水平線の上で誰にも見せない項目を開いた
どんなにかそれが欲しかったことだろう、不全に向けていつでも
高い跳躍を続けてきた自分
下弦の月の一番尖ったところで、運命のはやにえになろうとしていたんだ
夏に降りしきる雪の数は、数え切れないほどに視界を埋め尽くし、そこで
独りというものを感じるには充分過ぎる強固な壁が
蚕の繭のように身の回りをめぐった、ああ、いつか
いつかこの囲みに切り傷をこさえて、びしょ濡れの虫のように抜け出すことが出来るだろうか?
夏に降り積もる雪の数は、ああ、あまりにも具体性に過ぎて
ただただ口を閉ざしているくらいしかすることがない
太陽に炙られながら、波にふらつかされながら
ここは誰にも手紙を出すことが出来ないところ
夏に降りしきる雪が
むしろ本当のものをこそあやふやにしてしまう
水平線の向こうにあるものはきっと、地球という盆の端っこで
後は奈落に向かって落ちてゆくのみだ
実際のところ、それが球であろうと盆であろうと
我が身に降りかかることとは何の関係もないのだ
宇宙など信じているうちに忘れてしまう花の名がある、それはまるで
死体のように砂浜に横たわる流木のような忘却だ、夏に降りしきる雪がそれを毛布のように確かにあるものとして包んでいく
すべての事柄のあやふやな線を
この世界にいる間見つめたい
それがどれほど長いものになるのか、あるいは短いものになるのかなんて想像もつかないが
あるいはそのことにどんな意味があるのかまたまったくの無意味なのかどうかなんて知る由もないが
こうして変換を続けていられる間は少なくとも何かの感触として胸に残るだろう
一個の存在としてずっともがいていることを選んだだけだった、何かの定義に乗っかって
定説を唱え続けてもきっと流木のように忘れるのみだ
夏に降りしきる雪の重み、自分の中枢に空いたいくつもの穴ぼこの形に似た結晶
人はその穴を欠陥と呼んだがある意味ではそれこそが自分自身であったのだ…独白とは本来脈絡のない生々しいものだ
強い波、足首を掴まれたような気がして波打ち際に尻もちをついた、本当の亡霊は意識の中にこそ存在する、特別なことじゃない、何もそれは特別なことじゃないんだ
こうして変換を続けていられる間は少なくとも何かの感触として胸に残るだろう、たとえそれが一過性の良薬だったとしても―勝ち取る、なんて本来そうした物事の息継ぎに過ぎない
また魂の獄、どこのどんな言葉を突付けばこの境界の向こうに
貼り付けられたイデオロギーが催す視線はまるで、そう、錆びた廃車みたいで
強固な鉄の末路、そうさ
俺は誰よりもその意味を知っていたはずなんだ
少なくともこうして変換を続けていられるうちは

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