あとは標的を見つけるのみ、といった感じの鋭角的な光線は、ちょうど天井の一角を貫こうとでもするみたいに壁を走っていた、がらんとした部屋の中に突然展開されたそんな光景は、時代錯誤なパンク・ロックバンドのジャケット・アートを想像させた、尖ったものは魔王し尽くした後に笑われて終わるだけだ、そんなフレーズが脳裏をよぎる、退屈な午後の一幕だった、俺は部屋を出て、街の喧騒の中へ己を紛れ込ませた、感染拡大、という言葉がトレンド商品のようにあたりの店先で飛び交ってる、ウィルスくらい簡単に致命的なほどの無意識も予防出来りゃいいのにな、と思う、あれぐらい根強く人々を侵し続けているコンテンツもそうはない、すれ違った女が小さな声で何かを呟いた、きっとそれが現代社会の自意識というものなのだ、奇形肥大した防衛本能のメルトダウン、空っぽの卵の殻が一番強固なのさ、俺は野良犬を掃うように左手を二度振る、台風が近づいているせいでアメーバのような湿気がアスファルトをのたうち回っている、道路標識に誰かの落とし物らしいファンシーなキーホルダーのついた鍵がガムテープで張り付けられている、家の鍵のようだが、その後なんとかなったのだろうか、そのまま、ホームレスになったりしたら面白いかもな、素敵じゃないか、残酷な詩情に塗れている、もしもそんな現実がこの世に存在するのなら、俺は間違いなく時々、そいつにバスルームを提供するだろう、公園のベンチで一休みする、ついこの間まで高校生だった、そんな感じの男女がやって来て、トイレ前のベンチにぴったりくっついて座る、暑くないのかね、女の方が時々、男と話しながら横目で俺の様子を窺っている、ああ、と俺はなんとなく感づく、この公園の多目的トイレには、時々使用済みの避妊具が落ちている、俺は一度背伸びをして、二人の居るところからは遠い出口から出る、彼らがいつかヘマをやらかしたとき(それは近いうち必ずあるだろうけど)、八つ当たりの対象になりたくはなかった、まあ、今日が過ぎればお互いに、こんなことは記憶の片隅にも残りはしないだろうけど、そのまま近くのコンビニに潜り込む、話好きな年寄りがレジの娘を困らせていたので、何を買うつもりもなかったけれど飲物を買って話を終わらせてやった、俺がレジに立つと娘はホッとした様子になった、随分長いこと捕まっていたのだろう、偶然なのかどうかはわからないが、ああいった連中は必ず暇な時間にやって来る、コンビニを出て、ごみ箱の近くで買ったものを胃袋に移し、空の容器を捨てた、水分がある程度満たされると、余計に暑くなるような気がするのは何故だ?どうでもいい問だし、答えが欲しいわけでもなかった、無意味な疑問符が年がら年中渦巻いてる、その中の無視出来ないものを摘み上げて捏ね回していたら、いつの間にか髪の毛に白髪が目立つ歳になった、ワクチン接種のお知らせは開封すらしていない、「どっちで死ぬか」という選択に過ぎない気がする、まあ、あえて言葉にするならという話だけど、賛成、反対、どちらの側に立つものも仲間じゃない連中を見下し、罵り、蔑む、「正解」の中には決して含まれないボキャブラリーのオンパレード、せめて口もとの唾を拭きとるくらいのマナーを身に着けてから意見を言うべきだ、癇癪や敵意が根底にあるような程度なら、最初からわかってるような顔なんかするべきじゃない、人生は名前のない舞台かもしれない、けれど、自らモブキャストの中へ潜り込んでいくなんて救いようがないくらいの笑い話だ、川原のベンチに腰を下ろして、少しの間川の流れを見つめていた、満潮時にはこの川は逆に流れる、海が近いからそうなるのだと最近知った、「川を下る」とよく言われるが、あれは「海へ上る」と言った方が正しいのかもしれない、少なくともその時の俺にはそう思えた、まあ、ただの言葉遊びだ、それでなにかが変わるわけじゃない、けれど、イマジンには必ず、あらゆる方向からの表現があるべきだ、どうしてみんなああも、テンプレ通りの言い回しが好きなんだろうな?舞台には舞台の、ドラマにはドラマの、音楽には音楽の、ウンザリするほど繰り返されたフレーズ、きっといまは、自分で考えることなんて時代遅れなんだろう、大昔から、確固たる共通概念に手を引いてもらうだけの世界、そんな場所で俺が生存している理由、こうして、詩を書き続ける理由、昔はそんなことが俺を立ち止まらせていた、どうしてこんなことが、どうしてそんなものが、と…けれどそんなことについて考え込んだところで仕方がないのだ、原因が、理由がどんなものでも、動きを止めなければ必ずなにかしらの結果に辿り着く、その場所で今度はもう一度行く先を考えればいい、俺は部屋に戻ることにした、数時間が過ぎた、あの鋭角な光線が、俺を狙うことは少なくとももう今日はないだろう。
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