無駄心遣いの話しに戻ります。ついに私は小心のあまり病気に罹りましたので13歳の時から学校の寄宿舎から出て学校をやめねばならぬ様になりました。しかし父はなお別に教育を授ける為、徳の優れた某夫人の許に一週間に数回連れて行ってくれましたが、今までの学校と違ってこの夫人の自宅に通うのでありますから、自然この世俗に近づいてきました、この夫人の部屋の中には古い珍しいものが沢山ありましたので、これを見るためにいろいろの人が訪ねてきておりました。それで大抵先生の母親が客のもてなしをしておられましたが、私は教えを受ける間、眼は書物に注いでおりましても、耳には聴かなくとも良い事まで入りまして、ある夫人は「この娘の毛髪は綺麗である」とか「この若い美しい娘は誰であるか」とか、直接私に向かって話しするのではないですが、おのへつらいの言葉が却って直接に聞くよりも強く応えますので、すこし愉快な感じが致しました。これによっても私はまだこの時代にどれほどの虚栄心があったかという事がよく分かります。
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