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小さき花-第6章~2

2022-09-15 21:40:42 | 小さき花

 11月4日の夜明けの3時頃暗夜の静けさの時、リジューの市中を通って停車場に出ました、私は少しも知らない地に行き、ローマでは私の身の上について大事な事が待っているという事を感じておりました。
 パリ市に着きますと、父は名所旧跡に案内してくれました、が、私にとって唯一の名所は「ノートル・ダム・デ・ビクツアール」(勝利の姫君)の天主堂でありまして、この堂に詣った時に私はいかなる感じが起こったか到底言い表す事が出来ません、その時も又聖母は私が初聖体の時に与えてくださった恩寵と同じ恩寵を与えてくださいましたので、私の心は非常な平和と幸福とに満たされました、ここに我が母なる童貞マリアが以前病気の時に私に微笑みせられた御方、私の病気を治してくださった御方はご自分であるという事を明らかにさとされました、熱心に祈って「いつも私を守護してくださるよう、希望を遂げさせてくださるよう、なおまた正常潔白の徳を守り、罪悪の便りを避けるようにしてください」とお願いいたしました。
 私はこの旅行中心を乱すようなことにしばしば出会うという事をかねて覚悟しておりました、私は今まで悪という事を少しも知らず、悪という事を見つけるのを恐れておりました、『潔き人々には者皆潔し……(チト1の15)』という事をまだ自分に経験した事がありません。即ちこの悪というのは無感覚な物質の中にあるのではなく、穢れたる人の心の中にのみ存在のですから、質朴淡泊な人は何事にも悪を思いません、私はまた聖ヨゼフに御保護を願いました、幼い時から聖母を愛すると共に聖ヨゼフに対しての信心を持っておりました、それで毎日「童貞者の保護なる聖ヨゼフよ……」という祈禱を唱えておりましたから私は彼らに能く保護せられ、凡ての危険から全然逃れるという事を信じていたのであります。
 モンマルツルの聖心の天主堂の中で、聖心に身を献げて後、11月7日にパリ市を出発いたしました、この参拝者の団体列車には保護を願うために、客車ごとにその車中におられる一司祭の保護の聖人か、あるいはその司祭の受け持っておられる教会の保護の聖人の聖名を選んで命名するのが慣例となっておりました、この団体の頭なる司教様から私の乗っている客車の保護の聖人として、聖マルチノをお選びになりました、この聖マルチノは私の父の霊名でありましたので、父は司教様に厚く御礼を申しました、そして人々はその時から父を指して聖マルチノさまと呼ぶようになりました。
 レベロニ副司教は私の行為について、子細な事にまでも絶えず気をつけ試験をせられ時々遠くからでも私を見ておられることに気づきました、また食堂に居る時でもちょっと隔てていると私を視、私の言葉を聴くためにわざわざ身を屈めておられました、これはちょうど私を試験して居られるようでありましたが、大方この試験の結果には満足なさったであろうと思います、なぜならばこの旅行の末私に対して余程好意を持たれるようになりました……殊にことさらこの旅行の末と書きましたのは、すぐ後に申し上げますが、ローマに於いては私を弁護してくださいませんでしたからであります……然しあまり私を弁護してくれませんと申しましても、バユーに於いて私に約束せらえたことを破ろうとせられたという事を思いません、時々斯様に私の望みに反対して居られたのは、全く私を試みるためでありまして、却っていつも私に対して親切であったという事を深く信じております。