白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

奇妙な形(解答編)

2016年12月21日 23時32分34秒 | 問題集
皆様こんばんは。
本日は予定通り、前回の解答を発表します。
少々マニアックな話ですが、よろしければお付き合いください。



1図(問題図)
ここから、黒がどう打つか?その結果は?
という問題でしたね。
なお、こちらで石を並べて確認する事もできます(外側は簡略化しました)。





2図(失敗図)
まず、素直な黒1の繋ぎから見て行きましょう。
白2に黒3と放り込んで、コウになります。
このコウの結末は、白がA、Bと連打できれば生き、黒がC、D(Cの左)と連打できれば白死にとなります。

通常のコウ、所謂本コウは、片方からは1手、もう片方からは2手で解決できます。
しかし、本図の形を解決までには、どちらも2手かかります。
所謂、二段コウと呼ばれる形です。
コウにも色々種類があり、黒白どちらがコウに勝ちやすいかも変わってきます。

さて、長々と説明しましたが、本図の黒1は失敗です。
コウはコウでも、もっと黒に有利なコウにできるのです。





3図(正解)
正解は、黒1の当てです!
当たりの黒△を繋がず、白を当たりにします。
これでコウの形ができましたが、どんな種類のコウになっているでしょうか?





4図(黒コウ勝ち)
まず、黒がコウに勝つ場合を考えてみましょう。
黒1と取り、さらに白2などのコウ材に受けず、黒3と連打すれば白死にです。





5図(白コウ勝ち)
次に、白がコウに勝つ場合を考えてみましょう。
白1と取り、さらに黒2などのコウ材に受けず、白3とコウを繋げばこのコウは白勝ちです。
お互いに、コウを勝つまでには2手ずつかかるので、これは二段コウです。

あれ? それなら、2図と同じでは?
そう思われるかもしれません。
しかし、実は白がコウに勝っても、まだ生きていないのです。





6図(新たなコウ)
前図の後、黒1と放り込んで行く手があります。
これは2図とほとんど同じ形ですね。
白がコウに勝つにはA、Bの連打が必要で、黒がコウに勝つにはC、Dの連打が必要です。

つまり、二段コウの後に、新たな二段コウが発生する形なのです。
黒が白を取るためには、最初のコウに勝っても良いですし、2回目のコウに勝っても良いのです。
しかし、白が生きるためには、最初のコウに勝った上で、さらに2回目のコウにも勝たなければいけません。
結局、問題図は白が生きるまで大変な状況、という事になります。





7図(コウ争い一例)
どう大変か、実戦的に考えてみましょう。
まず正解の黒1に対して、白2とコウを取りますが、黒3などのコウ立てを打ちます。
白は4と繋いでコウを解消しますが、まだ生きていません。
黒5(6の右)とコウを仕掛け、白6の取りに黒7などのコウ立てを打ちます。
受けずに白8と取れば、ようやく白全体は生きますが、黒は3、7、9と他に3手打つ事ができました。

本コウであれば、コウに負けた方は他に2手しか打てません。
それに比べて、白が不利である事が分かりますね。


この二段コウの後に二段コウが発生する形、何と言うのでしょうか?
私は聞いた事がありませんし、そもそもこの形を初めて見ました。

という訳で、この形について名前を募集します!
コメント欄を開放しておきますので、ご自由に投稿してください。
最も面白い、若しくはしっくり来る名前を、今後当ブログで使っていきたいと思います。

でも、この形が再び見られるかは分かりません。

<追記>
皆様からのコメントは、しばらく非公開にしておきます。
命名が決まりましたら、公開させて頂きたいと思います。、

奇妙な形(出題編)

2016年12月20日 23時59分59秒 | 問題集
皆様こんばんは。
本日は私の対局から、面白い形をご紹介しましょう。
以前ご紹介した両セキ崩れも見た事のない形でしたが、こちらもなかなか実戦に現れない形だと思います。
実は既にTwitterに投稿した形ですが、詳しくやってみます。



1図(テーマ図)
著書の題材にもなった、佐藤昌晴九段との対局です。
黒番で、焦点は左下ですが、私はどう打ったと思いますか?





2図(変化図)
当たりなので、黒1と繋ぐ手がまず思い浮かびますね。
勿論考えられる手ですが、何故私がこう打たなかったかは・・・忘れました。
恐らく白2から、下辺で居直られる事を嫌ったのでしょうね。
この白はとても取れそうにありません。





3図(実戦)
繋ぎでは白への響きが弱いとみて、黒1と当てて行きました。
黒△も当たりのままですが・・・。





4図(実戦)
白1と取って来ましたが、白4子がまた当たりです。





5図(実戦)
そこで黒1と取り返します。
しかし、またこの石が当たりです。





6図(実戦)
で、白1とまた取り返しました。
取り返し2回というのがまず珍しいですが、まだ本題には入っていません。





7図(実戦)
黒1~5まで、強硬に迫って行きました。
ここで白Aと打てば生きていますが、ただ生きるだけでは、つらい感じもします。





8図(実戦)
そこで、実戦は白1から黒地を破って来ました。
しかし黒4と眼を取って、何やらきな臭い状況になって来ました。





9図(実戦)
白1~7で下辺の黒が切れましたが、石が2線に8本並んでいます。
6死8生の格言通り、黒石は生きています。
そこで白9と眼を作りに来ましたが、この白は一体どうなっているのでしょうか?





10図(実戦)
という訳で、問題です。
次の黒の1手と、この白の死活がどうなっているか、考えてみてください。
なお、中央には眼ができないので、そちらを気にする必要はありません。

解答編の投稿は明日の23時を予定しています。

若手棋士Twitterについて&攻めの方向(4子局)

2016年12月19日 23時59分59秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
以前、日本棋院若手棋士のツイッターアカウントをご紹介しましたね。
まだ4週間目ですが、早くもフォロワーが1000人を超えたようです!
若手棋士の日常や思いを直に知る事ができ、非常に面白いです。
まだご覧になっていない方は、ぜひフォローやブックマークしてみてください!
ちなみに、今までの担当者は田尻悠人四段平田智也七段金子真季初段小山空也三段(現在)となっています。

さて、本日の講座は攻めの方向です。
またか、と言われそうですね。
プロに5子以内で打てる、所謂高段者にとって最も大きな壁になっているのが、この攻めの方向なのです(もちろん、低段者や級位者にとっても重要です)。
それでは、実例をご覧頂きましょう。



1図(テーマ図)
白△と打った場面です。
この白はまだ生きていませんが、どうやって攻めますか?
Aを選ぶかBを選ぶかで、後の展開は大きく変わります。





2図(実戦①)
実戦は黒1、3と、白の眼を奪って行きました。
白を生かさないという意味では、確かに厳しいです。

しかし、この黒3には、眼を取る事以外の意味が殆どありません。
地としては数目ですし、この手によって黒が生きるといった事もありません。
例えば白を取るなど、大きなダメージを与えられれば良いのですが、そうでなければ空振りになってしまいます。





3図(実戦②)
白1と進出されて、よく見ると黒△も強い石ではありません。
白を取る事は至難の業です。

ところで、書いていて気付きましたが、実は白は危ない姿をしていますね。
腕に自信のある方は、考えてみてください。
実戦で咎められる方は、私に2子で打てます。

さて、それはそれとして、本題に戻りましょう。





4図(実戦③)
実戦はこのように進みました。
自分の石が心配で思うように攻められず、白8までと治まり形を作られてしまいました。
こうなっては、黒が得た物はありません。





5図(正解①)
黒1と、こちらから攻めるのが正解です。
自分の石を補強しながら、白に迫ります。
Aのような狭い所は、相手に打って貰った方が良いのです。





6図(正解②)
白1から出て行こうとしても、周囲は真っ黒です。
とても眼を作るスペースは得られません。





7図(正解③)
となれば、白1から生きるしかありません。
しかし、2眼生きではあまりにもつらく、黒6と中央を止めておいて十分です。
大きな黒地が見込めますし、黒が全部繋がったので、黒Aなどの打ち込みも安心して決行できます。
黒必勝の形勢と言って良いでしょう。


攻めで大事な事は、碁盤全体を見る事と、数手先の展開をイメージする事です。
攻めの構想が描けるようになると、碁が楽しくなりますよ。

10月の投稿一覧

2016年12月18日 20時38分16秒 | 当ブログについて&バックナンバーまとめ
皆様こんばんは。
本日は10月の投稿記事をまとめます。

10/1(土)入門教室
学習塾の四谷大塚で行った、囲碁入門教室のレポートです。

10/2(日)苦しみからの解放
石を攻められている時に、苦しみから逃れる方法について解説しています。

10/3(月)藤沢三段、連勝!
女流本因坊戦第3局、謝依旻女流本因坊と藤沢里菜三段の対局をご紹介しています。
稀に見る激闘の一局でした。

10/4(火)名人戦第4局・封じ手予想
井山裕太名人が、高尾紳路挑戦者にまさかの開幕3連敗を喫しました。
崖っぷちに追い詰められて迎えた第4局、1日目の進行をご紹介しました。

10/5(水)井山名人、初勝利!
名人戦第4局は、井山名人が見事な内容で踏ん張りました。
2日目の進行をご紹介しました。

10/6(木)サバキ(幽玄の間棋譜紹介)
彦坂直人九段対王銘エン九段、羽根直樹九段対鶴田和志三段の2局に現れた、プロのサバキをご紹介しました。
この記事で200回目の投稿となりました。

10/7(金)力のサバキ(幽玄の間棋譜紹介)
沼舘沙輝哉四段と武宮正樹九段の対局から、プロのサバキをご紹介しました。
今回は上級編です。

10/8(土)一石碁(阿含桐山杯決勝)
阿含桐山杯決勝、二十五世本因坊治勲と河野臨九段の対局をご紹介しました。
両者力の籠った好局でした。

10/9(日)ひらつか囲碁まつり
第21回湘南ひらつか囲碁まつりのレポートです。
今回も大盛況でした。

10/10(月)10月の情報会員向け解説
第6回となる、日本棋院情報会員のPRを行いました。
山田規三生九段と村松大樹六段の対局の、解説の一部をご紹介しています。

10/11(火)出版予定&攻めの方向
著書「やさしく語る 碁の本質」についてのご紹介と、攻めの方向についての講座を行いました。

10/12(水)名人戦第5局・封じ手予想
高尾挑戦者の3勝1敗で迎えた、名人戦第5局1日目の進行をご紹介しました。

10/13(木)井山名人、連勝!
名人戦第5局は、井山名人が鮮やかな凌ぎを見せて快勝しました。
2日目の進行をご紹介しています。

10/14(金)おかげ杯国際対抗戦
第3回おかげ杯国際精鋭囲碁対抗戦から、伊田篤史八段と黄雲嵩五段の対局をご紹介しました。
伊田八段、見事な勝利でした。

10/15(土)おかげ杯国際対抗戦・結果
日本チーム対韓国チームの、全5局をダイジェストでご紹介しました。

10/16(日)9月の投稿一覧
9月の投稿記事をまとめました。

10/17(月)井山王座、先勝!
第64期王座戦挑戦手合第1局、井山裕太王座と余正麒七段の対局をご紹介しました。
終局直前まで戦いが続く、凄まじい碁でした。

10/18(火)武闘派対決!(棋譜紹介)
結城聡九段と金秀俊八段の対局をご紹介しました。
東西の武闘派対決は、期待を裏切らない殴り合いの碁となりました。

10/19(水)天元戦、開幕迫る(棋譜紹介)
天元戦挑戦者の一力遼七段と趙治勲名誉名人の対局をご紹介しました。
一力七段の特徴が、よく表れた1局だったと思います。

10/20(木)若手棋士、奮闘中!(棋譜紹介)
村松大樹六段と平田智也七段の対局をご紹介しました。
期待の若手同士の戦いは、見事なものでした。

10/21(金)井山天元、先勝!
第42期天元戦第1局をご紹介しました。
井山天元が剛腕を発揮した1局でした。

10/22(土)激戦(安斎七段-趙善津九段戦)
安斎伸彰七段と趙善津九段の対局をご紹介しました。
力自慢の両者の対局は、激しい戦いとなりました。

10/23(日)勝負師(小山三段-小林覚九段戦)
小山空也三段と小林覚九段の対局をご紹介しました。
小山三段の勝負強さが、よく表れた1局でした。

10/24(月)藤沢三段、タイトル奪取!
女流本因坊戦第4局をご紹介しました。
藤沢三段の充実ぶりが、よく表れた1局でした。

10/25(火)日中韓新鋭対抗戦
一力七段が、李欽誠九段を見事破った1局をご紹介しました。

10/26(水)名人戦第6局・封じ手予想
井山名人が3連敗後、2勝を返して迎えた第6局の1日目の進行をご紹介しました。
井山名人の足早作戦に、高尾挑戦者が重厚な打ち回しで対抗した序盤戦でした。

10/27(木)井山名人、3連勝!
名人戦第6局、2日目の進行をご紹介しました。
井山名人の強烈な絡み攻めが炸裂して3連勝、とうとう追い付きました。

10/28(金)余-清成戦(棋譜紹介)
余正麒七段と清成哲也九段の対局をご紹介しました。
余七段が、得意の読みで快勝した1局でした。

10/29(土)部分の形・効率の良い形
石の形の良し悪しは2種類あります。
その事について、指導碁を題材に解説しました。

10/30(日)攻めを貫く
5子局を題材に、積極的に攻める事の重要性について解説しました。

10/31(月)一力七段-安達四段戦
一力七段と安達利昌四段の対局をご紹介しました。
若手同士の対局は、非常に力の籠った戦いになりました。


10月も毎日投稿し、累計投稿回数は225回となりました。

隅の価値

2016年12月17日 18時04分48秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
本日は隅の価値について、お話ししたいと思います。

囲碁では、隅は価値が高いとされています。
確かにその通りなのですが、その理由を正しく理解できている方はどれだけいるでしょうか?
著書でも触れているように、「地が大きいから」というのは、価値の中の一部でしかありません。
「四隅取られて碁を打つな」という格言がありますが、その言葉に惑わされてはいけません。

では、真の価値はどこにあるのでしょうか?
それを、実例を交えてご覧頂きましょう。



1図(実戦)
5子局の白番です。
白1と三々に入りましたが、この手の狙いは何でしょうか?

著書の帯には「中盤が終わるまで、地のことは一切考える必要がありません」と書いています。
しかし、実際に私が自分の地が増える、相手の地を減らす手を打たないかと言えば、そんな事はありません。
4子以上の指導碁ですと、平均すれば1局に1回は三々に入っています。
すると当然、自分の地を増やしたり、相手の地を減らす結果になりますが、それは目的ではありません。
地の損得はあくまで結果であり、真の目的は他にあるのです。





2図(実戦)
三々入りの後、定石通り白6までとなりました。
白が隅を確保したのですが、「地を得した」というのはプラスアルファでしかありません。
真の利益は、「根拠」です。
隅だけで生きるためのスペースを確保したので、白△の一団はかなり強くなりました。
(黒Aなどから分断される可能性があり、完全ではありませんが)
そして、隅に根拠を確保した事の価値は、自身の安全だけには留まりません。





3図(実戦)
後に、白△と打ち込む事になりました。
根拠の無い黒△を攻める形になっています。
三々入りによって、自分の根拠を確保しただけではなく、同時に相手の根拠も奪っていたのです。





4図(実戦)
白6まで、黒は嫌な事になってきました。
右下黒が危険ですし、もがいて生きるようだと周辺の石にも害が及びそうです。





5図(変化図)
では、逆に黒が隅を確保したらどうなるでしょうか?
まず、白△全体に根拠が無くなります。
すると攻められるか、それが嫌なら何手かかけて守らされる事になるでしょう、





6図(続・変化図)
黒が隅を確保した事で、自分の根拠は安泰になっています。
いずれ白1などと打ち込んで来た時も、安心して戦う事ができます。
厳しく反撃する事もできますが、黒2、4などと守っていても十分です。
隅の黒が生きているので、辺の石の守りに専念できるのです。





7図(実戦例)
隅が重要なのは、あくまでも根拠を確保しやすいからです。
地を取るために一生懸命隅を確保する方が多いですが、その発想は間違っています。
例えば6子置いている碁で黒4や12と、とにかく四隅をがっちり守り切ろうとする方が多いですが、これでは良い碁は打てません。





8図(正解)
前図の黒4では、例えば黒1など、広い所へ向かいたい所です。
何故なら黒△が強力な援軍であり、三々に入られたとしても、黒が攻められる心配はないからです。
黒13となった図を、前図と比べてみてください。
より全局を制圧しているのは、どちらでしょうか?


根拠が大事なので隅を打つのであり、地が大きいからではないのです。
隅の地を取ろうとすると、弱い石を放置したり、大勢に遅れたりします。
優先順位を間違えないようにしましょう。