そんなこんなの「メイちゃん」の保護騒動は、近所や犬なかまの間でも、ちょっとした事件として知られました
N子さんの人生にとっても、大きなできごとの一つでした
「メイちゃん」がアパートの廊下で閉じこめられていたキャリーは、N子さんにはなかなか捨てることはできませんでした
「ひょっとして、メイちゃんは新しい飼い主になつかずに、戻ってくるかもしれない・・・
そうなったら、このキャリーでお迎えに行かなくちゃいけないわね・・・
いつか、そんな時がくるかもしれない、きてほしい・・・」
N子さんは、あわい期待をこめて、そのキャリーを大切に保管していました
でも、一月たっても二月たっても、スナックのママさんからも、あたらしい飼い主からも、N子さんにはなんの連絡もありませんでした
N子さんは、ついに「メイちゃん」との再会をあきらめて、そのキャリーを粗大ごみに出しました
時がすぎればまるで何事もなかったかのように、N子さんにも、犬散歩のなかまたちにも、また元のとおりの生活がもどりました
そんなことがあって半年ほどたった時、あの「メイちゃん」を新しい飼い主に引きあわせてくれたスナックのママさんと、N子さんは、ばったり町で会いました
スナックのママさんは、N子さんにむかい、一気に話しはじめました
「N子さん、あの時はごめんなさいね
あなたとメイちゃんを、あんなふうに、無理にひき離すようなことになってしまって、申し訳なかったわ
わたしも心のそこから、本当に苦しかった
でもね、あれは、メイちゃんの幸せを優先したことだったのよ
メイちゃんは、人なつこいから、新しい飼い主にはじめて抱かれた時からすっかり甘えていたわ
はじめて会ったのに、こんなに甘えてくるよって、新しい飼い主さんはとてもよろこんでいた
でももし、その場にあなたがいたら、どうだったかしら・・・
たとえ一週間でも一緒にいたら、メイちゃんは、新しい飼い主よりもあなたを選ぶに決まっていた
あなたの足元に走りよって、くんくんと甘える犬の姿をみたら、新しい飼い主さんはどう思ったかしら・・・
この犬は新しい自分たちのもとに来るよりも、N子さんの家のほうがいいのかな??
新しい飼い主さんに、もしもそんな迷いがあったら、メイちゃんへの接し方にも迷いがでる
そんな中途半端に迷った接し方は、メイちゃんの幸せにはつながらないわ
メイちゃんは、あなたがあの場所にいなかったからこそ、新しい飼い主さんのもとにすんなりと甘えることができたのよ
あなたにはつらい別れ方になってしまったけれど、メイちゃんと新しい飼い主には、幸せな出会いだったはず
けっして、あなたがメイちゃんに未練をのこさないように、という気持ちからではなかったの」
ママさんの話によれば、メイちゃんは、新しい飼い主のもとで、それはそれは大切に育てられているということです
「仮称 メイちゃん」は、新しく正式な名前をもらって、今は「アンズちゃん」と呼ばれているそうです
「アンズちゃん」になった「仮称 メイちゃん」、今のくらしはどうでしょう
どんなに暮らしがかわっても、放置されて苦しんでいた時にむかえに来てくれたN子さんのやさしさと愛情をわすれてはいないはず
ひょっとして、こんなふうに思っているかもしれませんね・・・
「捨て犬だったわたしを抱きしめ、愛情いっぱいに家族としてむかえてくれた、神様のようなN子さん
わたしを受け入れてくれて、ありがとう、ありがとう、ほんとうにありがとう
なのに、わたしのせいで、あなたには色々とつらい思いまでさせてしまったのね
ごめんなさい、ごめんなさい、ほんとうにごめんなさい
N子さんに会いたい、会いたい、今でも会いたくてしかたないの
でも、たとえ会えなくても、N子さんがわたしを愛してくれた一週間のご恩はけっして忘れるものではありませんよ!!!」
** ラン吉ママの独白 **
この捨て犬の放置事件は、まさに、我が家の目の前でおこったことでした
もし、「アンズちゃん」がN子さんに会う時があったら、きっとメチャメチャ甘えちゃうでしょうね
そんな時には、今の飼い主さん、「アンズちゃん」をゆるしてあげてくださいね
このお話はこれでおしまいです
おつきあいくださったみなさま、どうもありがとうございました
犬猫をはじめ、不幸に生きる動物たちが、すこしでも減ることを願ってやみません