いい女よりもいい男の数は少ない

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転職

2016-05-01 12:30:32 | 日記
その男性は実家に戻って就職した。東京での4年間はあっという間だった。学生生活の4年間は。帰りの電車の中で友人達の事を思い出した。またいつでも会えるから。そう言い聞かせて就職を決めたはずなのに。

大学時代に彼はある競技で名を馳せた。社会人になってからも続けてはいたが、あの頃とは環境が違う。次々と現れる若手に押され、自分の名が報道される事ももうなかった。社会人になるという事は、何かを手放す事でもあるように思う。学生気分で遊んでいたい訳ではなかったが、東京にいる友達のFacebookを見ていると心に一点のシミみたいなものが広がっていくのを感じた。楽しそうな皆。自分もあのままいたら、この集合写真の中にいただろうか。

圧倒的に長い時間を過ごしたはずの地元の思い出を、たった4年間の東京での生活が上書きした。土日が休みなので金曜の夜にたまに東京に行くのがイベントのようになっていた。かたや平日に地元の小さなジムでトレーニングをしていると否が応でも原宿のゴールドジムと比べてしまう。よく通ったものだった。いつも混雑しているのがあの頃は不満だったが、混むこともない田舎のジムに通う今を幸せだとは思わない。人と言うのは底なしに欲深いのだなと少し笑ってしまった。

東京の会社に転職をする事にした。地元では全員が反対したが、彼らの為に生きていく訳でもないのだ。誰の承認も得られないまま、いつもの電車に乗った。ただ違う事は、帰りのチケットを用意していないことか。契約しておいたアパートに荷物を置くと、東京で暮らすんだという実感がわいてきた。何もない床に大の字に寝っ転がっていると、そうだゴールドジムに入会しなきゃと思い出し、すぐに家を飛び出した。

「あの、○○さん、ですよね?」

「はい、そうですけど」

ジムで声を掛けられた。学生時代の事をネットで見たという方からだった。あの頃は多少は有名だったのだ。もう遠い昔の事だが、まさか覚えている人がいるとは思わなかった。

「覚えていますよ。あなたの事を見て、トレーニングを当時は頑張っていましたから。」

東京に来てよかった。今ではなく、あの時に。
東京に来てよかった。今、この時に。

「ありがとうございます」

その男は、オレに声を掛けられた後、笑顔でジムを後にした。