*名嘉友美作・演出 公式サイトはこちら 若山美術館 21日まで(1,2)
若山美術館は、銀座の大通りから奥まったところにあるビルの4F。ドアから少しのぞいただけだが、秘密の宝物がぎっしり詰まっているかのような可愛らしい空間だ。今回の会場はそこから階段をあがった5Fフロアである。靴を脱いでスリッパに履きかえる。中はフローリングに白い壁、椅子が5脚ならぶだけの超シンプルなもの。正面の壁には原稿用紙が何枚も張りつけてあり、よくみると薄く乱れた文字でいろいろ書いてある・・・。
シンクロ少女が過去に行った演目『極私的エロス』のリーディングと、短編『性的人間』2本立て上演の試みだ。10人の観客と5人の俳優が同じ空間で過ごす70分。暗転はなく、照明は最後まで明るいままで俳優からこちらがまる見えなのだが、このフロアには不思議な解放感、距離が近いのに舞台と混じらない雰囲気があって、少なくとも自分は息苦しさや居心地の悪さを感じることなく、さらりとした味わいを楽しんだ。
①『極私的エロス』・・・どちらも二また交際をして結婚したものの、すぐに別れてしまう男女の顛末。作・演出の名嘉友美の自伝風であり、どこまで事実なのかは不明である。
②『性的人間』・・・団鬼六『不貞の季節』を原案にしたエロ小説作家とその妻、運転手の三角関係。
①複数の場所の会話を同時にみせる名嘉友美の得意技がここでもみられる。しかも名嘉友美自身の裏とおもての顔を巧みに描き出しているところがおもしろい。上手の友美(名嘉本人)は結婚に迷う気持ちを女ともだち(横手慎太郎)にずけずけと指摘され、下手の友美(墨井鯨子/乞局)は結婚相手(泉政宏)を男ともだち(松原一郎)にひきあわせ、得意の絶頂だ。
俳優は自分で椅子を持ち運びながら、複数の役柄を演じわける。台本を手に持ってはいるが、台詞はがっちり入っている様子である。
②妻(名嘉友美)がうちを出たいと言い出した。夫であるエロ小説家(横手慎太郎)は妻の浮気を疑い、雇いの運転手(泉政宏)に相談をもちかけるが、当の彼が浮気の相手であった。おとなしいと思っていた妻が、運転手の前では別人のように淫乱な女に変貌し、実直な運転手も粗暴な一面をみせる。妻に背かれた小説家が泣きぬれながら、不倫の場面を何度も聞き返し、必死で小説を書こうとする場面は何とも(苦笑)。
①は配役の一部がダブルキャスト(墨井&浅野千鶴/味わい堂々、松原&中田麦平)であることや、直前に俳優の交替があったこと、かもめマシーンの『パブリックイメージリミテッド』の公演を終えたばかりの俳優もある(横手、松原のおふたり)ことなど、短い準備期間であったと想像するがマイナス面はまったく感じられず、①はリーディング形式をとることで、名嘉友美の作風の特徴、おもしろさをより明確にみせており、②では小説の舞台化にとどまらない独自の劇空間の構築に成功している。
夥しい紙を使うことや、俳優のからだに文字を書くことなどは、文字、ことば、書くこと、それを読むことについて、作者は何かを考えている、みせようとしていることは察せられたが、まだ試行錯誤状態か。①の『極私的エロス』の後半、さまざまな演出上の工夫が凝らされてあったが、俳優が椅子に座ったままリーディング形式に徹したとしても、作品のおもしろさはじゅうぶんに伝わったのではないか。演出を加えずに戯曲を素のままでさらすことのほうが大胆であり、作り手にとっては勇気が必要なのかもしれない。
名嘉友美の作品を俳優の読む台詞だけで聴いてみたい。それに堪えうる力を秘めた作品であるという手ごたえを、今回の公演から得たからである。
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