*タニノクロウ作・演出 鴻英良ドラマトゥルク 公式サイトはこちら 東京芸術劇場小ホール1 2月13日まで
「絵心」というのは重要な適性であり、一種の才能であると思う。本作はチェーホフの未完の博士論文『ロシアにおける医事の歴史』のための草稿に揺り動かされたタニノクロウが、心に浮かんだイメージを、舞台をキャンバスにして自在に描きだした世界であり、『かもめ』や『三人姉妹』など、戯曲の要素を求めると大変困惑する。自分は典型的に演劇を戯曲から、ことばから捉えようとするタイプであり、つまり絵心が非常に乏しいのである。
ドラマトゥルクの鴻英良はじめ、出演俳優の手塚とおるは創作にあたり、タニノに多大な協力をしたとのこと。また舞台装置、美術には多くのスタッフが、ほとんど「人力」のごとくステージごとに甚大な労力で関わっているとのこと。チェーホフを題材にタニノクロウが新作を創造することを、総力をあげて支え、実現した企画と言えよう。
しかしやはり自分は前述のように困惑が濃厚に残る観劇となった。いや観劇というより、自分の感覚としては実験的な場に居合わせたといったほうが近い。タニノクロウの脳内のイメージはことばに縛られたものには想像が及ばず、これが完成形ではなく、もっとこの先があるのではないかと思う。実験や冒険や試みはどんどん実行してよい。創造活動に紆余曲折、試行錯誤はつきものだ。ただどうしても実験の、それも中途の過程をみている違和感を拭えなかった。
自分には2007年上演の『野鴨』の印象がいまだに鮮やかだ。それを超えるものを期待するのは(特に本作のような実験的な舞台に対して)、見当違いなのだろうか。
ブログはもうずいぶん前から読ませていただいております。
人によって見方はそれぞれとはいえ『チェーホフ?!』について確かにこういう受け止め方もあるよなあと思い軽いショックを受けました。
私は『チェーホフ?!』を二回見ていますが、もう一回見たいと思ってるほど気に入っています。タニノクロウ演出作品の『野鴨』にも大きな感銘を受けましたが。
自分があまりにも気に入ってしまったために、客観的に作品を見られなくなっているのかもしれません。ああ私はタニノさんの表現と相性がいいんだなということを改めて知ったような感じがします。
今回の舞台について新聞の劇評やいろいろなサイトを読んでみますと、caminさまのように何度でも足を運ぶほど楽しまれた方と、自分のようにほとんど歯が立たなかった人と、印象が大きく異なるようですね。チェーホフの評伝劇である井上ひさしの『ロマンス』をあまり楽しめなかったことも、もしかすると今回の自分の撃沈ぶりに関係があるのかもしれません。
これに懲りずに、またどうぞお運びくださいませ。
以前からお読みくださっている御由、改めて御礼申し上げます。