因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

toi presents 4th『四色の色鉛筆があれば』

2009-01-27 | 舞台
*柴幸男作・演出 公式サイトはこちら シアタートラム 28日まで
 サスペンデッズの『片手の鳴る音』に続く、シアタートラムネクストジェネレーションvol.1の第2弾である。toiの舞台は昨年6月の『あゆみ』以来。みるみる空席が埋まり、両サイドの通路も立ち見がでる盛況となった。今日の舞台は4本の短い作品が続けて上演され、短編演劇集といった味わい。3本めの『反復かつ連続』と4本めの『純粋記憶再生装置』が心に残った。
『反復かつ連続』何かの評論のようなタイトルだが、舞台をみているとまさにその通りであることがわかる。出演は内山ちひろだけなのだが、いわゆる一人芝居の趣きはほとんどないと言ってよい。ある家族の朝食の風景が、繰り返し描かれているのだが、その手法というのがちょっと他でみたことがないくらい変っているのである。最初にうちを出て行くのはおそらく小学生だろうか(ランドセルを背負うような所作があったので)、顔を洗ってご飯を食べ、身支度をして出て行くまでの流れが終わると、内山は再び舞台上手に戻り、今度は姉が同じように朝の支度をする様子を演じる。姉の演技に、前場での弟(としておこう)の台詞がかぶり、また次に出てくる姉たち、最後は家族の世話を焼く母親が登場し、家族全員の慌ただしい朝の風景が重層的に描かれるのである。
 前場に登場した家族たちの台詞は音声として録音されたものが流されるわけだが、しゃべっているのは結局内山ひとりだけだ。衣裳も変えず同じ声で、特に人物の演じ分けを意識しているようにもみえない。なのにまさしく家族の会話に聞こえるのである。台詞のタイミングは寸分違わず絶妙、特に『ズームイン朝』のテーマ曲を皆がそれぞれ楽器を担当するように歌い出す場面のおもしろさは他に類をみない。呆気にとられながら、柔らかく静かで温かいものが感じられた。いや、こういう舞台をみたのは初めてだ。

 4本めの『純粋記憶再生装置』は、愛の末期にある男女が、楽しかったころの思い出をたどる話である。俳優は男女2人ずつ、合計4人が登場し、動作だけだったり、話している人物のうしろで同じ台詞を口だけ動かしたり、過去の彼らと現在の彼らがめまぐるしく変化する。ふと映画『ふたりの5つの分かれ路』を思い出した。少し手法に走っているようにも思えたが、それでも舞台ぜんたいの印象を損ねるものではない。人の心、人と人のつながりを描くには、ほんとうにいろいろな方法がある。それが目新しさだけを狙っているのであればあざとく感じられるだろうが、柴幸男の舞台には手法の披露に陥らない姿勢があって、それが好ましく、次の舞台が楽しみになった。

 劇団の成長を計るのは、より大きな劇場で公演をすること、すなわちより多くの観客を動員することがひとつの重要なポイントであるが、決してそれだけではないと思う。サスペンデッズ、toiともに日頃の公演とは随分違った客層に対峙することによって、いろいろ戸惑いや試行錯誤があったことだろう。どちらも客席の反応は上々であった。世田谷パブリックシアター友の会の方は、「もっと世田谷を盛り上げたい」とおっしゃていたが、自分は、今回初めて両劇団の舞台をみたお客さんが、今度は下北沢のOFFOFF劇場やこまばアゴラ劇場に足を運ぶようになったら、もっと楽しいと思う。劇団が精進する意識を強く持つだけでなく、観客が行動を起こすきっかけとして、今回の試みが広く繋がっていくことを願っている。
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