*イトキチ作 内藤裕子演出 公式サイトはこちら 上演時間約1時間40分休憩なし 下北沢シアター711 20日まで。 (1,2,3,4)
green flowers(以下グリフラ)最新作の公演チラシは、七色の水引が描かれた熨斗袋のデザインになっている。開いてみると結婚式の招待状だ。折り目正しい時候の挨拶にはじまり、今度結婚式を挙げるので、ささやかな披露パーティを催したいと、新郎新婦の名前で記されている。
2012年の『ふきげんなマリアのきげん』以来、イトキチの劇作による公演は久しぶり。またイトキチには2011年のvol.10『そう、みじかよ』という作品があり、今回の『こんこんと、』はイトキチの冠婚葬祭シリーズ第2弾になるとのこと。
舞台には白いテーブルがひとつに椅子が数脚、段ボール箱がいくつも置かれている。当日リーフレット掲載の登場人物図を兼ねた配役表をみると、式場のスタッフにはじまり、菅原家、瀬戸内家、さらに居酒屋の人々もあわせて総勢12名が登場するらしい。結婚式の招待状の差出人の名は瀬戸内真吾と菅原海であるが、配役表にこの2人の顔は見当たらない。
ここが『こんこんと、』における重要な設定であり、仕掛けであり、魅力の元となっている。
舞台は結婚披露宴を明日に控えた式場の準備室、菅原家、瀬戸内家、居酒屋の合わせて4つの空間に加え、おそらく結婚式場の社員の通用口あたり、最後には親族控室にもなる。一組の男女の結婚をめぐって、複数の劇空間が入れかわり立ちかわりしながら、それぞれの背景や思いが少しずつあぶり出されたり、あるいは急転直下の展開になったりする。
結婚前夜の当人や家族の様相、披露宴当日のドタバタなどの悲喜こもごもという設定じたいはあまり目新しいものではない。りょうほうの家族に一筋縄ではいかない複雑な事情があったり、想定外のアクシデントが続出するなか人々がとんでもない機転を働かせてどうにかこうにか披露宴を行う・・・などといったシチュエーションコメディとしても何とはなしに既視感がある、という方は多いのではなかろうか。
舞台の詳細を書けないのが実にもどかしく、同時に嬉しい悩み。つまりグリフラの『こんこんと、』は、いっけんありきたりともいえる設定ながら、ほかのどこでも見られない、まさにグリフラならではの劇世界を構築することに成功した。劇作家イトキチの快作であり、内藤裕子も新作のリズム、俳優陣の個性を心得た的確な演出を行っている。
上演の前半、思いのほか客席が静かなのは、複数の空間で交わされるそれぞれの会話に、この結婚にまつわる情報がたくさんあって、それらを聴きとり、理解してぜんたいを把握するという作業がいささか大変なためではないかと思われる。細かな伏線やきっかけも多く、実を言うと終演後下北沢の駅の改札を通ったあたりで、「あ、そういうことか」と納得するところもあった。
欲をいえば、劇ぜんたいのテンポを落とすということではなく、ひとつひとつの台詞をもう気持ち落ち着いて発語されていたら、と思う。
グリフラの舞台には捨て役がないことが大きな特徴だが、居酒屋の店員さんは「さすがに彼はここだけだな」と思っていたら、何と終盤になってまさかの大波乱を引き起こすのだ。これにはびっくりした。
観客がもっとも知りたいのは、新郎新婦がどんな人であるかだ。家族や友人のなかでさんざん話題になっている2人は、どんな顔をしてどんな声でしゃべるのだろう。しかし舞台にはとうとう2人は登場しない。主役とも言える新郎新婦を最後まで登場させないのが、『こんこんと、』に込められた思いであり、劇作家イトキチの心意気ではなかろうか。
観客は「知りたい」という気持ちを抑制することを求められるわけだが、それによって観劇後の印象がよりさわやかで温かなものになった。
ほかにもぐっと胸にくる場面や、よくよく考えると深い意味のあるやりとり、つい思いだし笑いしてしまうところなど、書きたいこと、伝えたいことが次々に湧いてきて、とても筆が追いつかない。いやネタをばらしてはならないし、非常にもどかしく、しかしそんな舞台に出会えたことが嬉しくてならない幸せな夜となった。
楽しんでいただけたのならば、これ以上の喜びはありません。もちろん、まだまだ稚拙な部分はありますが、それでも、身の丈で、心一杯でお届けすることを目標に一同挑んでおります。
ご観劇早々にこのようなお言葉をいただけて、胸がいっぱいです。
宮本さんのように、こんこんと、何かを思ってお帰りいただけるお客様が、一人でも多くいらっしゃるような作品にすべく、千秋楽まで頑張りたいと思います。
ありがとうございました!
こちらこそ早々に拙稿お読みくださいましてありがとうございました。
コメントもいただいて恐縮しております(汗)。
今回はまさにグリフラ版「父帰る」ですね。
千秋楽までひとりでも多くの方が劇場を訪れますよう、心から祈っております。