続きまして、【冬から春のトピック】~因幡屋観劇覚書~としまして、1月から3月の観劇の中から印象深い舞台について、4月と5月にネット視聴した舞台やオンライン演劇、さらに映画についてのミニコラムをお届けいたします。観劇直後にblogを記載したものにつきましては、記事をリンクしておりますので、ご参考までに。
次号の発行は秋を予定しておりますが、紙媒体に戻れるか、ネット公開が続くかはまだわかりません。ウィルス災禍が少しずつでも終息に向かうこと、作り手も受け手も安心して劇場に行ける日の訪れをひたすらに願いつつ、今自分にできることを続けてまいります。今後ともどうかよろしくお願いいたします。
【冬から春のトピック】~因幡屋観劇覚書~
☆1月☆
*新春浅草歌舞伎 @浅草公会堂 昼の部の「菅原伝授手習鑑」の『寺子屋』では尾上松也の松王丸、中村隼人の武部源蔵が火花を散らす。しかし両者は敵ではなかった。同じものを守ろうとしていたとわかるのは、幼子が命を散らした後のことである。親がわが子を苛み、死なせる今の時代にあって、いっそう心を打たれる。松也は夜の部の「仮名手本忠臣蔵」七段目で大星由良助をつとめ、硬質な造形のなかに、ふと柔らかみも見せて魅力的。
*楽園王◎公演 ウジェーヌ・イヨネスコ作 長堀博士演出『授業』@サブテレニアン 岩澤繭はこれまで別の座組で女中、生徒を演じており、今回の教授役によって三役を制覇した。立ち位置の異なる三者が、ひとつの地点へなだれ込んでいく様相は、衝動的でありながら、計画的な殺人の図。何度観ても謎が深まるばかりである。
*トライストーンエンタテイメント 唐十郎作 杉原邦生演出『少女仮面』@シアタートラム 春日野八千代に若村麻由美を配し、無機的な空間でのスタイリッシュな舞台となった。
*新春浅草歌舞伎 @浅草公会堂 昼の部の「菅原伝授手習鑑」の『寺子屋』では尾上松也の松王丸、中村隼人の武部源蔵が火花を散らす。しかし両者は敵ではなかった。同じものを守ろうとしていたとわかるのは、幼子が命を散らした後のことである。親がわが子を苛み、死なせる今の時代にあって、いっそう心を打たれる。松也は夜の部の「仮名手本忠臣蔵」七段目で大星由良助をつとめ、硬質な造形のなかに、ふと柔らかみも見せて魅力的。
*楽園王◎公演 ウジェーヌ・イヨネスコ作 長堀博士演出『授業』@サブテレニアン 岩澤繭はこれまで別の座組で女中、生徒を演じており、今回の教授役によって三役を制覇した。立ち位置の異なる三者が、ひとつの地点へなだれ込んでいく様相は、衝動的でありながら、計画的な殺人の図。何度観ても謎が深まるばかりである。
*トライストーンエンタテイメント 唐十郎作 杉原邦生演出『少女仮面』@シアタートラム 春日野八千代に若村麻由美を配し、無機的な空間でのスタイリッシュな舞台となった。
☆2月☆
*7度 DIM VOICE3 マルグリット・デュラス原作 小沼純一翻訳 伊藤全記構成・演出『大西洋のおとこ』@七針 受付や観客誘導を終えた三人の女性がそのまま自然に演技を始める。茅場町の静かな住宅街にある小さなスペースが、広さも深さもわからない空間となり、観客はひたすら目を凝らし、耳を澄ませる。
*mètro第12回公演 唐十郎作 天願大介演出『少女仮面』@テアトルBONBON 宝塚歌劇団の男役トップスターの宿命を身を以て味わい、さらに唐組テント公演へ二度の客演経験を経た月船さららが満を持して春日野八千代に挑んだ。生温かな体温が伝わり、血と汗が混じり合う体臭が漂うかのような舞台。安らかな表情で退場する春日野は、どこかの地下で今も生き続けている。
*二月大歌舞伎 三遊亭円朝口演 榎戸賢治作「人情噺文七元結」@歌舞伎座 温かく、心に染み入る話である。朝日新聞の劇評が、尾上菊五郎の左官長兵衛を「淡彩で行儀がいい」、「主役でも他の人の芝居を食わない」と評しており、終演後の気持ちよさの理由はここにあったのかと。
*劇団文化座 三好十郎作 鵜山仁演出『炎の人』@全労済ホール/スペース・ゼロ ヴィンセントを演じる俳優を劇団から出すこと、劇団ぜんたいの力の充実を目指した文化座の覚悟が伝わる力作だ。登場人物が舞台に揃い、ヴィンセントに語りかける言葉は、劇作家三好十郎その人の言葉に他ならない。彼が投げる花束を、客席は確かに受け取った。
*7度 DIM VOICE3 マルグリット・デュラス原作 小沼純一翻訳 伊藤全記構成・演出『大西洋のおとこ』@七針 受付や観客誘導を終えた三人の女性がそのまま自然に演技を始める。茅場町の静かな住宅街にある小さなスペースが、広さも深さもわからない空間となり、観客はひたすら目を凝らし、耳を澄ませる。
*mètro第12回公演 唐十郎作 天願大介演出『少女仮面』@テアトルBONBON 宝塚歌劇団の男役トップスターの宿命を身を以て味わい、さらに唐組テント公演へ二度の客演経験を経た月船さららが満を持して春日野八千代に挑んだ。生温かな体温が伝わり、血と汗が混じり合う体臭が漂うかのような舞台。安らかな表情で退場する春日野は、どこかの地下で今も生き続けている。
*二月大歌舞伎 三遊亭円朝口演 榎戸賢治作「人情噺文七元結」@歌舞伎座 温かく、心に染み入る話である。朝日新聞の劇評が、尾上菊五郎の左官長兵衛を「淡彩で行儀がいい」、「主役でも他の人の芝居を食わない」と評しており、終演後の気持ちよさの理由はここにあったのかと。
*劇団文化座 三好十郎作 鵜山仁演出『炎の人』@全労済ホール/スペース・ゼロ ヴィンセントを演じる俳優を劇団から出すこと、劇団ぜんたいの力の充実を目指した文化座の覚悟が伝わる力作だ。登場人物が舞台に揃い、ヴィンセントに語りかける言葉は、劇作家三好十郎その人の言葉に他ならない。彼が投げる花束を、客席は確かに受け取った。
☆3月☆
*らまのだ6かいめ公演 南出謙吾作 森田あや演出『優しい顔ぶれ』@下北沢OFF OFFシアター 新作書下ろしを含め、三本の短編が上演された。すれちがう男女の上質な会話劇『麻酔みたいな』、零細ネットメディア制作会社を舞台に、憲法九条をめぐって本音と建前やら元自衛官やらが大激論を交わす『あたらしいニュース』、ブティック経営者の夫は、入院中の妻を見舞いながら、店の女性との関係を断ち切れない『優しい顔ぶれ』。劇作家の筆の冴え、それを受け止め、立体化する演出家の息の合った舞台。
*嶋谷佳恵✕高橋紗綾企画 ふたり第2回目『よにん』屋代秀樹(日本のラジオ)作 奥村拓(オクムラ宅)演出@目黒/rusu 「うわごと」と「そらごと」二バージョンの前者を観劇。古民家をまるごと劇場に見立てる奥村拓が得意とする趣向。家に出はいりする4人の女性は「だれが格別悪いというわけはなく、全員がすこしずつおかしいだけ」(当日リーフレットより)。目黒駅から徒歩十数分の静かな住宅街で体験する猟奇的物語は、行きと帰りでは途中の景色の空気まで変容させる。
*らまのだ6かいめ公演 南出謙吾作 森田あや演出『優しい顔ぶれ』@下北沢OFF OFFシアター 新作書下ろしを含め、三本の短編が上演された。すれちがう男女の上質な会話劇『麻酔みたいな』、零細ネットメディア制作会社を舞台に、憲法九条をめぐって本音と建前やら元自衛官やらが大激論を交わす『あたらしいニュース』、ブティック経営者の夫は、入院中の妻を見舞いながら、店の女性との関係を断ち切れない『優しい顔ぶれ』。劇作家の筆の冴え、それを受け止め、立体化する演出家の息の合った舞台。
*嶋谷佳恵✕高橋紗綾企画 ふたり第2回目『よにん』屋代秀樹(日本のラジオ)作 奥村拓(オクムラ宅)演出@目黒/rusu 「うわごと」と「そらごと」二バージョンの前者を観劇。古民家をまるごと劇場に見立てる奥村拓が得意とする趣向。家に出はいりする4人の女性は「だれが格別悪いというわけはなく、全員がすこしずつおかしいだけ」(当日リーフレットより)。目黒駅から徒歩十数分の静かな住宅街で体験する猟奇的物語は、行きと帰りでは途中の景色の空気まで変容させる。
・・・観劇を予定していた四月以降の公演はすべて中止あるいは延期となりましたが、インターネットでのオンライン演劇の配信が続々と行われています。そのなかでは、「12人の優しい日本人を読む会」(三谷幸喜作 冨坂友演出)、アガリスクエンターテイメント番外公演『ナイゲン』朗読版(冨坂友作・演出)、Pityman5夜連続配信企画『ぜんぶのあさとよるを~ラブ・イズ・オンライン』(山下由脚本・音楽・監修)が心に残りました(『ぜんぶのあさと~』は、えびす組劇場見聞録64号に劇評記載)。
・・・スーパー歌舞伎Ⅱ『新版オグリ』、国立劇場三月歌舞伎公演 尾上菊之助主演『義経千本桜』三部作(1,2,3)、松竹三月大歌舞伎(1,2,3,4)は、無観客で上演した舞台映像が期間限定で無料配信されました。明治座三月花形歌舞伎では、出演者による座談会を行い、作品の見どころや稽古の逸話、父祖伝来の小道具なども披露、「きっと明治座に帰ってきます」と力強く宣言して幕となりました。
・・・オンライン文学座劇場」より、『紙風船』(岸田國士作 西川信廣、高橋正徳演出)は、三世代の俳優がそれぞれの年輪の声で読み継ぎ、おうちで過ごす子どもと大人に向けた「劇団民藝のおはなし会」は、俳優の藤巻るもの色彩豊かな絵と軽やかな文章、中堅と若手俳優が心を込めて語ります。
・・・スーパー歌舞伎Ⅱ『新版オグリ』、国立劇場三月歌舞伎公演 尾上菊之助主演『義経千本桜』三部作(1,2,3)、松竹三月大歌舞伎(1,2,3,4)は、無観客で上演した舞台映像が期間限定で無料配信されました。明治座三月花形歌舞伎では、出演者による座談会を行い、作品の見どころや稽古の逸話、父祖伝来の小道具なども披露、「きっと明治座に帰ってきます」と力強く宣言して幕となりました。
・・・オンライン文学座劇場」より、『紙風船』(岸田國士作 西川信廣、高橋正徳演出)は、三世代の俳優がそれぞれの年輪の声で読み継ぎ、おうちで過ごす子どもと大人に向けた「劇団民藝のおはなし会」は、俳優の藤巻るもの色彩豊かな絵と軽やかな文章、中堅と若手俳優が心を込めて語ります。
【映画も少し】
*山田洋次監督 山田洋次/朝原雄三脚本『男はつらいよ お帰り寅さん』(2019年 日本)渥美清が亡くなって二十数年、過去作品を織り込みながら、寅さんを忘れられない人々を描いたシリーズ最新作。マドンナ役の太地喜和子や佐藤オリエなど、懐かしい顔ぶれも嬉しい。「困ったことがあったらな、風に向かっておれの名を呼べ」と寅さんは満男に言った。寅おじさん、すべての人が幸せに、機嫌よく生きる術を教えてください。
*テレンス・マリック監督・脚本『名もなき生涯』(2019年 アメリカ/ドイツ)第二次世界大戦の折、兵役を拒否した農夫の実話に基づいて、キリスト者の信仰を貫いた名もない市井の人と、その家族を描く。
*ポン・ジュノ監督・脚本『パラサイト 半地下の家族』(2019年 韓国)半地下住宅で暮らす貧しい家族が知恵を絞り、一致団結の大胆な行動力でのし上がろうとして、絶体絶命の危機に陥る。清々しいまでに容赦なく描き切り、観客に容易に委ねないことで、なおかつ深い余韻が残る。是枝裕和監督『万引き家族』や諏訪敦彦監督『風の電話』に抱くもどかしい印象の理由はたぶんここにある。
*ラジ・リ監督・脚本『レ・ミゼラブル』(2019年 フランス)ヴィクトル・ユゴーの名作『レ・ミゼラブル』の舞台となったパリ郊外のモンフェルメイユで、一人の少年が引き起こした事件が予想外の事態に発展する。対話や和解、歩み寄りがほぼ不可能と思われる絶対的な断絶と無理解の果てに、犯罪対策班の警官たちと町の人々は、どこに行き着くのか。ラストシーンは微かな希望の光か、それとも?
*山田洋次監督 山田洋次/朝原雄三脚本『男はつらいよ お帰り寅さん』(2019年 日本)渥美清が亡くなって二十数年、過去作品を織り込みながら、寅さんを忘れられない人々を描いたシリーズ最新作。マドンナ役の太地喜和子や佐藤オリエなど、懐かしい顔ぶれも嬉しい。「困ったことがあったらな、風に向かっておれの名を呼べ」と寅さんは満男に言った。寅おじさん、すべての人が幸せに、機嫌よく生きる術を教えてください。
*テレンス・マリック監督・脚本『名もなき生涯』(2019年 アメリカ/ドイツ)第二次世界大戦の折、兵役を拒否した農夫の実話に基づいて、キリスト者の信仰を貫いた名もない市井の人と、その家族を描く。
*ポン・ジュノ監督・脚本『パラサイト 半地下の家族』(2019年 韓国)半地下住宅で暮らす貧しい家族が知恵を絞り、一致団結の大胆な行動力でのし上がろうとして、絶体絶命の危機に陥る。清々しいまでに容赦なく描き切り、観客に容易に委ねないことで、なおかつ深い余韻が残る。是枝裕和監督『万引き家族』や諏訪敦彦監督『風の電話』に抱くもどかしい印象の理由はたぶんここにある。
*ラジ・リ監督・脚本『レ・ミゼラブル』(2019年 フランス)ヴィクトル・ユゴーの名作『レ・ミゼラブル』の舞台となったパリ郊外のモンフェルメイユで、一人の少年が引き起こした事件が予想外の事態に発展する。対話や和解、歩み寄りがほぼ不可能と思われる絶対的な断絶と無理解の果てに、犯罪対策班の警官たちと町の人々は、どこに行き着くのか。ラストシーンは微かな希望の光か、それとも?
*文学座アトリエ70周年記念イベント〈岸田國士フェスティバル〉岸田國士リーディング&トーク@文学座アトリエ 岸田國士作 鵜山仁演出『紙風船』鎌倉への小旅行を空想する夫(石橋徹郎)と妻(山本郁子)の「ごっこ遊び」が、ある演出によって、日ごろ表に現れない夫婦の危うい心象を炙り出す。何度も観ている作品の違う顔はミステリアスで切ない。アフタートークでは、ゲストに劇作家・演出家・俳優の長塚圭史を迎え、鵜山、石橋とともに、万全の対応を心がけ、冷静にウィルス災禍に立ち向かう覚悟が伝わる心強いものであった。
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