因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

パラドックス定数 第46項公演『プライベート・ジョーク』

2020-12-13 | 舞台
*野木萌葱作・演出 公式サイトはこちら  東京芸術劇場シアターイースト 13日終了(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28
 2019年春、シアター風姿花伝プロミシングカンパニー公演最後の1本『Das Orchester』から、実に1年9か月ぶりのパラドックス定数公演は、2007年に初演された作品の再演である。まだ劇団でなかった頃の作品で、残念ながらわたしは未見である。当日リーフレット掲載の作・演出の野木萌葱の挨拶文によれば、「この作品を最後に、劇団化へ踏み切りました」とのことだ。野木は毎回開演前と終演後にユーモアを交えながらも折り目正しい挨拶をするのだが、見慣れたショートカットの髪は、うしろで束ねるほど伸びており、存分に創作ができなかった長い日々を思わせた。

 芸術家たちが若き日を過ごした学生寮を舞台に、彼らの交わりと葛藤と挫折が描かれる。彼らは名前を持たず、呼び合わないが、映画作家B(井内勇希)はルイス・ブニュエル、詩人L(植村宏司)はガルシーア・ロルカ、画家D(小野ゆたか)はサルバドール・ダリであることはわりあいすぐにわかる。そこへ現れる学者E(加藤敦)はアルベルト・アインシュタイン、画家P(西原誠吾)はパブロ・ピカソであろう。

 固有名詞を出さずに時代や国を想起させる手法は『Das Orchester』において見事に結実していた。かつらやメイクを外国人風にすることなく、かの国のあの人だと観客に了解させる作りになっていたのである。しかし今回は全体的にどうもしっくりせず、舞台に集中しづらかったことが残念である。時おり時間軸が交錯する構造も、演劇的感興より先に、頭を整理する作業が必要であった。どこがどのように…と具体的に書けないのだが、芸劇の舞台は空気が拡散するというのか、密度が薄まってしまうところがあって、俳優の熱演がこちらまで届きにくかったのではないだろうか。前述の芸術家たちについて、事前にもっと知識を仕入れていれば、あるいは劇場が変われば、もっと凝縮した空気感になり、固有名詞を持たない彼らの普遍性がより確かに立ち上がったかもしれない。

 パラドックス定数次回公演については、「少しお休みしてからお知らせします」(当日リーフレット)とのこと。元のように旺盛な創作活動を継続するには、現状はあまりに厳しいのであろう。自由だった過去を思い出して嘆くのは虚しく、かといってすぐに「共生」を唱えることにも抵抗がある。できることをしよう。『プライベート・ジョーク』の上演台本を読みながら、自分の脳内で舞台を再度構築するのは案外骨の折れる作業になりそうだが、次回作までの備えとして、じっくりと待ちたい。
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