*名嘉友美作・演出 公式サイトはこちら 三鷹市芸術文化センター星のホール 14日で終了(1,2,3,4,5,6)
Mitaka“ Next” Selection 14thの1本として、星のホールに登場した。いつもは小さな空間でむせかえるような愛憎劇をみせるシンクロ少女が、この大きな劇場でどんな舞台をつくるのか。
Mitaka“ Next” Selection 14thには、参加する劇団ごとに主宰のインタヴューがチラシに折り込まれている。今回の舞台にどんな構想を抱いているか、三鷹のホールをどのように使いたいか、はじめてみたのはどんな演劇か、はじめて演劇をつくった経緯、志を与えられた経験、そして演劇のもつ魅力とは・・・一見ありきたりにみえて、非常に重要で不可避の問いかけばかりである。それらを丁寧に重ねることで、相手の答、考えを引き出す。誠実な問いかけからは、やはり誠実な答がかえってくるのだと思わされるインタヴューだ。
シンクロ少女の舞台は何本かみており、自分なりのイメージをもっている。それに対してインタヴューの内容は、そのイメージとは異なる意外なところが多々あり、驚くと同時にこれからみる舞台への期待を高めるものでもあった。
その最大なものは「基本的に物語にしか興味がないので、観ている人の心を揺さぶることができるような物語をやりたいと思っています」である。
最新作『ファニー・ガール』は休憩なしの2時間30分、ここでまず「ただごとではない」と気構えた。舞台には白っぽいグレーの台が組まれている。上手手前に一部屋、その上に一部屋、そして下手の上の方にもう一部屋と、複数の空間が作られている。そして下手から緩やかな坂道のように通路があり、舞台前面を通って、今度は上手方向に上がっていく(舞台美術・松本謙一郎)。
物語には複数の家族が登場する。高さの違う部屋はそれぞれの家庭になり、大人たちがむつかしい話をしているあいだ、子どもたちが過ごす別室にもなり、ひとりになりたくて出かけ、懐かしい人とばったり出会う山の公園になったりする。舞台の通路を行き来することによって、人々は互いの家庭へご飯を食べにいったり、遠くへ旅立ったりもする。
これまでの作品においても複数の空間の会話が少しずつずれたり重なったりする描写はあったが、今回天井の高さ、奥行き、袖もたっぷりある星のホールの空間を有効に使い、演じるほうもみるほうもゆとりがもてたのではなかろうか。
はじめての劇場を活かしてシンクロ少女の個性がより魅力的に発揮されるように考えぬかれ、つくられた舞台美術である。
いくつかの家族の15年の歳月を描いた物語だ。十代の高校生カップルが長じて結婚し、子どもをもつ。開演前に配布されている当日リーフレットには出演俳優の名前だけが記載されており、配役表は終演後に手渡すとのアナウンスがある。物語がすすむうちに、高校生が30代になって演じる俳優が替わったり、ひとり二役があったり、子ども時代から大人まで一人の俳優が通して演じたりなど、少し複雑な配役がなされており、なるほど事前にそれらがわかってしまうと、物語をみる楽しみが変化する可能性があることがわかる。
俳優の実年齢には多少のちがいはあるにしても、おおむね同世代の座組みであると思われる。しかし父親を演じる俳優はちゃんと父親にみえ、高校生は高校生に、小学生は小学生にみえるのである。不自然なところはまったくない。映像ではできないことを、演劇は無理なくみせられる。演劇の特性であり、少し大げさだが「勝利だ」と嬉しくなる。
どんな人々が登場し、どのような物語であったかは書かずにおく。説明記述に陥りそうなためでもあり、だれがどうしてこうなったと書いてしまうのは何だかもったいなく、もうしばらく心のなかで温めたいと思うからである。2時間30分のあいだ、自分は一度も時計をみることはなかった。この長さが最適で必然であったとは言い切れないが、ではどこの場面をカットすればということも考えにくい。個人的好みとしてはミュージカル風?の場面がよくわからない印象ではあったが。
何をみせるかよりも、「どうみせるか」にこだわり、舞台の絵面や手法に力を注ぐ若手の演劇が話題を集めるなかで、「物語にしか興味がない」と言い切る名嘉友美はもしかすると少数派であるかもしれない。しかし自分はその姿勢に共感を覚えるものであり、人物の性格や話の流れが多少特異であっても、そのなかのたったひとつの台詞でも場面でもよい、みるひとが自分の人生を投影し、肌感覚にかするものがあれば、虚構の物語はみるひとにとっての現実の一部になりうるのである。
小さな劇場やギャラリーで公演をしてきた劇団が大きな劇場を使うことについては、結果的にまったくの杞憂であり、むしろシンクロ少女の劇世界は劇場の大小や使い勝手の良しあし、雰囲気のちがいにも柔軟に適応できうるという証左であろう。
次回公演は2014年春、都内某所とのこと。『ファニー・ガール』の実績をひっさげて、今度はどんな物語をみせてくれるのだろうか。
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