因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ヒンドゥー五千回×宮沢大地

2008-10-13 | 舞台
*別役実作『眠っちゃいけない子守歌』 岸田國士『命を弄ぶ男ふたり』いずれも扇田拓也演出 公式サイトはこちら 江古田ストアハウス 8日で終了

 別役実の『眠っちゃいけない子守歌』の戯曲を読んだのは、おそらく20年以上前になる。中村伸郎が男1を演じた初演をみることはできず、それからだいぶたって藤井びんが男1を演じた舞台の録画をテレビでみたが、あまり記憶に残っていない。この作品の上演を実際にみたのは2004年3月横浜相鉄本多劇場に於けるトーキョー・バッテリー・ブラザーズ公演、加藤一浩演出の舞台であった。この公演は『小さな家と五人の紳士』との2本立てで、山登敬之との交互演出、しかも演じる俳優陣は2日間、3公演ですべて異なるという企画であった。自分がみる舞台は、この日1日限りのものになるわけである。別役実作品というと、どうしても中村伸郎の姿や声が思い浮かび、男1の「それでなくたって、私は死にそうなんだから」という台詞を聞いただけで「ああ、いかにも中村さん!」と懐かしくももどかしくなる。しかしいつのまにか目の前の舞台に引き寄せられていき、終演後は自分でも不思議なほど心が満たされて帰路に着いたのであった。なぜだろうか。

 今回の『眠っちゃいけない子守歌』は、女1も男性が演じる。野太い男の声のままで「ごめんください」と冒頭の台詞があり、「おかしいわね」と言いながら女装というには衣装も化粧も半端なこしらえで、女1(向後信成)が登場すると客席には笑いが起こる。ここは笑うところではないのだが、と思いつつ、演出家の意図を探る。男1(久我真希人)はまったく死にそうに見えないし、2人は勢いよく(しかしやりとりは噛み合ない)台詞をしゃべり、取っ組み合いまでする。
 
 もう1本の『命を弄ぶ男ふたり』は、年末渋谷ルデコで風琴工房の詩森ろばが演出する舞台をみた。しかも男2人のうち、「包帯」を演じたのがまさに扇田拓也だったのである。だが情けないことにほとんど記憶に残っていない。

 満たされた記憶と、残っていない記憶。そのどちらも新しい舞台をみるときの糧になる。今回の舞台についてはいまだきちんとしたものが書けないのだが、2本とも心身覚醒して舞台に見入ったことは確かである。どちらも偶然2度めの観劇になる。いつの日か3度めの正直があるさと期待するのは怠慢だが、年月を経て如何様な読み方、作り方にも堪えうる戯曲であるという手応えはますます強くなった。

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