*三島由紀夫作 谷賢一演出(1,2) 公式サイトはこちら シアタートラム 9日で終了
若手演出家が大作戯曲に挑むシリーズも今年が3回めとなる(その1、2)。昨年は友人と、今年は家族と観劇した。気安く「リーディングに行こう」と誘ったところ、2人とも「リーディング公演」が初めてで、「それはどういうもの?」というリアクションに、はっとさせられた。自分には自明のことであっても、初めてなら期待よりも不安が募るだろう。この公演はいわゆる本式のお芝居とは違い、舞台上で俳優が戯曲を「読む」ものであること、伸び盛りの演出家が、古典、大作と言われる戯曲に挑み、演じる俳優はベテラン、中堅、若手までいろいろな人が出演し、めったにみられない組み合わせが楽しめる・・・と話すと友人は「よくわからないけれどおもしろそう」と食指を動かし、家族は「それは芝居の『通』がみるものでは。」と多少警戒しつつ、「聴いてみないとわからない」と開き直った。観劇は1人でもじゅうぶん楽しめるが、いっしょにみる人によっても大きく左右される。舞台をみてその人がどんな反応をするかが、自身以上に気になるからだ。さあ、DULLーCOLORED POPの谷賢一による『熱帯樹』はどうなることか?
登場人物は両親(吉見一豊、久世星佳)と兄(石母田史朗)、妹(中村美貴)、そして叔母(父の妹 松浦佐知子)の5人である。派手づくりの妻は老いた夫が死ぬことを願っており、兄は病む妹と愛し合う関係にある。叔母はすべてを知りながら病人の看護をしている。
休憩をはさんで2時間30分は、このシリーズとしてはもっとも長いものになるのではないか。同道の家族は1幕をほぼ爆睡、自分も残念ながら全編覚醒してみることはできなかったが、意外なほどシンプルで、自分のカラーを前面に出さない作りであることを好ましく思った。リーディングだからこそいろいろな手法があり、ト書き読みひとつとっても演出家の個性や戯曲の解釈をみせることができる。しかし谷賢一は実に辛抱強く『熱帯樹』に取り組んでいる印象があり、謎めいて理解しにくい家族の世界と、俳優の実力が堅実に示される舞台になった。
ステージ中央が主舞台となり、出番のない俳優は後方のテーブルでお茶を飲んだりしながら台本を読む。上手に小さなテーブルと椅子があり、ト書きを読む松浦佐知子はそこを定位置とし、叔母を演じるときには中央に進み出る。うっかりするとドロドロの陳腐な愛憎劇に陥るところを、劇の世界に対して、作り手が静かに距離をとっていることが視覚的に示される効果的な演出だ。劇中何度か叔母が歌う場面では、演じる松浦は歌わず、低い音楽が流れるなか歌詞を静かに語る。心やさしく思慮深い叔母だが、もっとも恐いのはこの人ではないか。
客席ぜんたいが「戯曲を聴く」緊張感で静まりかえっている空気を、今回はじめて味わった。
無理をさせた家族には少し悪かったが、気負わずに観劇できた様子である。さて次回は誰と戯曲を聴くことになるだろうか。
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