*川名幸宏脚本・演出 北澤芙未子舞台美術 公式サイトはこちら 吉祥寺/櫂スタジオ 13日まで 劇団名のヤコウバスは「夜行バス」であり、観客をひととき、旅にいざなうような舞台が劇団のコンセプトらしい。今回の公演のことはブログにも詳しく、作者がそうとうな準備、勉強をされたことがよくわかる。
吉祥寺は不思議な町だ。駅周辺に新しいビルや商業施設が続々とオープンする一方で、古本や古着の店がひっそりと並ぶ通りもある。昨年のちょうどいまごろ、ゲンパビ公演ではじめて足を運んだ百想(現/CLOSET)も味わい深い場所だった。
そして今日はJR吉祥寺駅から徒歩12分の櫂スタジオに向かう。中央線沿いに「不安は高まりますがぐんぐん直進」という出演の方からの道案内はおおげさではなかった。お店は少なくなり、しだいに道は細くなって行き止まりじゃないかと、ほんとうに順調に不安にかられつつ、大きな道路沿いのスタジオに到着。
間口が狭く、中も広いとは言えず(笑)、しかし圧迫感がないのは中央の演技スペースを客席が三方向から囲むつくりのせいだろうか。
開演前に制作者から観劇中の諸注意ののち、「間もなく開演です。どうかよい旅を」と締めくくられて、すぐに開幕したのはとてもよかった。よし、これからはじまるぞと気合いが入る。 「間もなく開演」と告げたそばから、「もうしばらくお待ちを」と言われ、ほんとうにもうしばらく待っていると、どうしても気が削がれるからだ。
ところが一人ずつ登場した俳優がウォーミングアップのような動きをし、それが終わると出演も兼ねる川名が客席に向かって来場の感謝と開演を告げ、これからどのような物語がはじまるかを語るところで、微妙なぎくしゃく感をもった。
出演者が物語の構造や趣向、展開を観客に説明するという手法?は、劇中いくつもの場面でみられた。観客にとってわかりやすい舞台にするための工夫のひとつであることはたしかなのだが、劇の流れ、感興を損なうマイナス面は否めない。
小さな空間で凝縮した舞台をみせようとするとき、いや大劇場であっても、舞台と客席をひとつの空間にするには、作り手も受け手も集中力が必要だ。ずっと緊張しっぱなしでは疲れるのではないか、このあたりで少しリラックスしたり、笑いを取ったりしたほうがと配慮するのは構わない。
しかしそれは俳優が素にもどったり、楽屋落ちのような場面を挿入することではないのではないか。リラックスするよりも気が緩んでしまい、そのあとかえって疲れる。
何より、解説がなくても今回の舞台の構造は観客にじゅうぶんに伝わるものである。作り手に「伝わらなかったら」という不安や、照れがあるのだろうか。ここは思いきって正面からぶつかることに挑戦してほしい。
劇中に出演者のひとり西村俊彦による「ひとり天空の城ラピュタ」が行われ、これはもう天晴れというほかはない至芸なのだが、「これからどうなる?」と期待するより、「こうやってしまって、これからどうなるのか?」という戸惑いのほうが強かった。ラピュタも本作のひとつのモチーフとして、劇本編につながりを持たせている。ならばそのつながり具合をもっと巧みにすることも、作者ならできるはず。そして西村はその作者に応える力のある俳優であろう。
物語は後半で『アルレッキーノ-二人の主人を一度に持つと-』になだれ込み、このあたりで舞台の空気が弾みはじめる。この劇中劇において、男性と女性を巧みに、しかも嫌みなく演じ分けた西村の鮮やかな造形に、十八番のラピュタよりも目を奪われるのである。
すべてをかつてのヨーロッパに設定するのではなく、台詞には現代のあれこれを取り混ぜている。たとえば村の祭で道化師として初舞台を踏んだ主人公のところに、さる国の貴族がスカウトにくる。彼に名刺を渡して、「どこか所属事務所は?」とたずね、主人公は「フリーです」と答えたりなど。
たしかにおもしろく、観客へのサービス、工夫である。しかし既視感のある手法であり、取り混ぜ方のさじ加減についてはまだまだ吟味し、調整する余地があるだろう。
7月10日朝日新聞夕刊に、「子供のためのシェイクスピア」シリーズ主宰の山崎清介のインタヴューが掲載されている。演劇特有の約束事は「何度も見るうちに勉強していくもの」と思っていたが、子どもたちは「全然そうではなかった。子どもたちは生まれた時から想像力を持っているんですね」とのこと。
大人が子どもに優る想像力をもっているかどうかはわからない。むしろ大人になるにつれて徐々に失ってしまうものかもしれない。しかし思いきって投げかけてみることに挑戦してみてはどうだろうか。
今回の『嘘と月』は、作者にとってことさらに思い入れのある大切な作品である由、当日リーフレットの挨拶文に掲載されている。
その気持ちをひとりでも多くの観客が共有できるように。作り手と受け手が慣れ合うのではなく、それぞれの立ち位置から演劇への愛情を確認できるような舞台。ヤコウバスのつぎなる旅に期待している。
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