二代目の『盛綱陣屋』が観たくなります。
**********
(語る 人生の贈りもの)中村吉右衛門:3 「盛綱陣屋」、初代に劇場揺れる
朝日新聞 2017年7月12日05時00分
1953年、東京・歌舞伎座の「盛綱陣屋」で小四郎(右)をつとめる。左は初代中村吉右衛門=本人提供
■歌舞伎俳優・中村吉右衛門
《厳しかった初代。「重(しげ)の井子別(いこわか)れ」の三吉の稽古で怒鳴られた》
8歳ぐらいでしたかね。初代がやってみろと言うので目の前で三吉をやりましたが、途中で初代に「お前なんか役者やめちまえ」と怒鳴られました。子役ながら、時代物と世話物とを演じ分ける、大変難しい役です。でも私はうまくできなくて……。結局、「こんなに下手じゃ跡継ぎとしてみっともない」とお蔵入りに。この役をつとめたのは初代が亡くなった翌年の1955年、10歳の時です。
《53年、歌舞伎座で「盛綱陣屋(もりつなじんや)」を上演、天皇も観覧した。佐々木盛綱を演じた初代と、9歳で共演した。北条時政に従う盛綱は、敵方の弟高綱(たかつな)の討ち死にを知らされ、時政の前で首を調べる。偽首と見破るが、本物と信じさせるために切腹した小四郎(高綱の子)の忠心にうたれ、本物だと言って主君を欺く》
実父(初代松本白鸚)も和田兵衛の役で出ていました。私は小四郎をつとめました。偽首を見て「お父さんだと言って死ね」という策略を父高綱から授けられ、忠実にとらわれの身となる役です。
盛綱は知恵者で義にも厚い。初代は時代物の強い役ばかりやっていたので、ふだんより優しい感じがして、白いきれいな顔で衣裳(いしょう)も美しく、親しみがわいたのでしょう。よく覚えています。
盛綱は、首実検で一目見て偽首と気がつく。しかし、せがれが父だと言って切腹したのはどういうことなのか、と考えます。「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」など、ほかの話では首実検の場面はなるべく早く済ませますが、「盛綱陣屋」の盛綱の首実検だけはたっぷりやれという口伝があります。
おなかを切った小四郎は長い間ずーっと、下を向いて耐えています。初代のせりふの間、お客様の拍手やどよめきで、劇場が揺れる感じを体験しました。空気が初代にぎゅーっと引き寄せられ、お客様と気持ちが一体になる。歌舞伎芝居はこういうふうにやらなくてはと子ども心にも感じました。
(聞き手 山根由起子)
**********
当代吉右衛門の『盛綱陣屋』は、まだ観たことがありません。残念なことです。お孫さんを小四郎に使いたいというので待っているのかもしれませんが、ファンとしては一日も早くという気分です。
当代が演じても、劇場は揺れるはず。その日のことを考えると、それだけで胸がわくわくします。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます