クリント、監督としてのあなたの才能に疑いは持っておりません。そんなあなたに尋ねたいことがあるのです。
あなたはイーストウッドという俳優にアカデミー最優秀主演男優賞を与えるべきだと思いませんか?ゴウ先生は、あげてしかるべきだと思うのですが・・・。
『許されざる者』と今回の『ミリオンダラー・ベイビー』で2回アカデミー最優秀監督賞を獲得したクリントでありますが、今回最優秀主演男優賞に関して言えば、『許されざる者』の時と同様、ノミネートだけで終わってしまいました。
ゴウ先生がどうしてもこの目で確認したかったのは、イーストウッドの演技でした。結論から申し上げれば、この演技で受賞できないとすると、後は別の人間に監督をしてもらって最優秀監督賞を獲らないようにするしかない(?)と確信した次第です。
正直言って、最近のアカデミーは、男優賞でも女優賞でもなく、変身したで賞ないしはソックリデ賞を与えている気がします。今年ならば、レイ・チャールズ役をやったジェイミー・フォックスがもらった理由がまさにそう見えるのです。フォックスの演技力を過小評価するわけではありませんが、審査委員たちは、本物に似ているかどうかで選んだ気がして、ゴウ先生はどうにも割り切れないものがあります。
『許されざる者』の時には、受賞したのが『セント・オブ・ウーマン』のアル・パチーノでしたから、あの正統的な演技の前にはさすがのゴウ先生も納得しました。アルのあの演説を聴いたら、もう誰もが彼に投票してしまうはずです。だから、あの時は「イーストウッド、あんたは運が悪かったんだ」と思ったものです。
しかし、今回は獲ってもおかしくなかった。クリントの監督としての素晴らしさは、クリント・イーストウッドという稀代の男優に支えられているという見本の映画でしたから。
そこまで惚れ込む俳優イーストウッドの魅力はどこかと言えば、あの声なんです。193㎝の長身から振り絞るように出される細くてしわがれた声。あの声がなければ『ミリオンダラー・ベイビー』は成立しかなったと断言します。
今回御年74歳の大ベテラン俳優の声は、ますます小さくしゃがれています。到底大声は出せません。しかし大声が出せないイーストウッドを使いこなしたのが、クリントのすごさなんです。
劇中、スクラップ(モーガン・フリーマン)と一緒に、マギー(ヒラリー・スワンク)の試合を見に行ったフランキー(クリント)がマギーに声を出して応援する場面があります。その時、スクラップは「ここからじゃ聞こえないぜ」と言います。憮然とした表情でフランキーは応えるのですが、これだけでこれからフランキーがマギーのトレーナーとして鍛えていくのだと分かります。何せ接近しなければ、フランキーの声はマギーにとどがないのですから。
そうなんです、フランキーの声は誰にも聞こえないほど細く小さいのです!そしてそれがこの映画のテーマを形として表現してくれているのです。
フランキーは、毎週娘に手紙を書きます。しかしその手紙は受取人不在のハンコとともに帰ってきます。
フランキーは、優秀なボクサーを慎重に育てようとします。しかし、選手はその慎重さに耳を貸さず、フランキーから去っていきます。
フランキーはマギーのトレーナーを引き受ける時、こう言います。「ルールは一つだ。質問するな。言われたとおりにやれ。それだけだ」
そして、フランキーは、マギーに「自分を守れ」と教えます。しかし、マギーにはそれが聞こえていませんでした。
そして最悪の結末がやってきます。
この映画の本当の主役は、フランキーの声なのです。それは神の声のごとく、正しいことしか言いません。しかし弱く間違いばかりを犯す人間には聞こえてこないのです。
イーストウッドの声は、映画を見る(聴く)者に、じれったさと苛立ちを生みます。彼の大声で言えない悔しさを分かち合おうと、観客は彼に優しい目を注ぎ、映画との一体感が生まれ、素晴らしい感動を共有できる仕組みになっているのです。大したものです。
とはいえ、声がだめになった点以外は、『ダーティ・ハリー』の頃から何も変わっていないではないかと言う人がいても、ゴウ先生、否定はしません。しかし、ことこの『ミリオンダラー・ベイビー』において、イーストウッドは彼にしかできない役と演技を完璧にこなしたことを忘れてはいけません。
アカデミー最優秀主演女優賞を獲得したヒラリー・スワンクの演技力もすごいです。ボクシング・ファイトの場面もさることながら、イーストウッドの小声とシンクロさせる彼女の大きく滑舌のよい発声が――それもクリントの演出プランかもしれませんが――二人の陰陽を明確にしてドラマを盛り上げていくのです。
そして、最後には、皮肉なことに、病院のベッドで声を出せなくなったがゆえに、マギーは初めてフランキーと本当の意味で心を通い合わせることができるようになるのでした。
その意味では、全編ナレーター役もつとめるスクラップの声が、この映画の性格を如実に現してもいます。モーガンの暖かさがその声と話す内容からこちらの胸に響いてきます。フランキーの小声とマギーの元気よい声の中間で二人を結び付けているのがよく分かる声なのです。
イーストウッドの映画は、目で見るだけではだめなのです。耳を澄ませて心で聴く姿勢があれば、感動は幾重にも広がっていくのです。
ゴウ先生ランキング:A
最後の30分間の展開は、何も下準備しないで映画館に入ったゴウ先生にはショックでした。そこまでマギーを苦しめてどこが楽しいの、とクリントに言いたくなったのが、A+を逃した理由です。
でも感動しました。今年見た映画では、うまさでダントツ1位。感動で『パッチギ!』についで2番です。
公開終了間近ですが、ぜひ映画館の大スクリーンで楽しんでください。
ちなみにゴウ先生は、6月15日(水)に新宿ピカデリー1という大劇場で見ました。平日昼間の1時30分からの回でしたが、7割くらいは埋まっていました。後から5列目くらいのところで見ましたが、両サイドの非常口の緑色のライトが邪魔であること以外は、実に快適でした。悪名高い映画館ではありますが、この映画に関してはマルでしょう。
なお、INDECでは来月アメリカで発売されるDVDを入手して定期上映会にかける予定です。その時にまたじっくりと細部まで検討したいと思います。(そう言えば、来月『パッチギ!』も出るんですよね。楽しみですけど、映画館で見たい作品もゴマンとあるし、出費に頭を悩ませられる7月になりそうです。)
あなたはイーストウッドという俳優にアカデミー最優秀主演男優賞を与えるべきだと思いませんか?ゴウ先生は、あげてしかるべきだと思うのですが・・・。
『許されざる者』と今回の『ミリオンダラー・ベイビー』で2回アカデミー最優秀監督賞を獲得したクリントでありますが、今回最優秀主演男優賞に関して言えば、『許されざる者』の時と同様、ノミネートだけで終わってしまいました。
ゴウ先生がどうしてもこの目で確認したかったのは、イーストウッドの演技でした。結論から申し上げれば、この演技で受賞できないとすると、後は別の人間に監督をしてもらって最優秀監督賞を獲らないようにするしかない(?)と確信した次第です。
正直言って、最近のアカデミーは、男優賞でも女優賞でもなく、変身したで賞ないしはソックリデ賞を与えている気がします。今年ならば、レイ・チャールズ役をやったジェイミー・フォックスがもらった理由がまさにそう見えるのです。フォックスの演技力を過小評価するわけではありませんが、審査委員たちは、本物に似ているかどうかで選んだ気がして、ゴウ先生はどうにも割り切れないものがあります。
『許されざる者』の時には、受賞したのが『セント・オブ・ウーマン』のアル・パチーノでしたから、あの正統的な演技の前にはさすがのゴウ先生も納得しました。アルのあの演説を聴いたら、もう誰もが彼に投票してしまうはずです。だから、あの時は「イーストウッド、あんたは運が悪かったんだ」と思ったものです。
しかし、今回は獲ってもおかしくなかった。クリントの監督としての素晴らしさは、クリント・イーストウッドという稀代の男優に支えられているという見本の映画でしたから。
そこまで惚れ込む俳優イーストウッドの魅力はどこかと言えば、あの声なんです。193㎝の長身から振り絞るように出される細くてしわがれた声。あの声がなければ『ミリオンダラー・ベイビー』は成立しかなったと断言します。
今回御年74歳の大ベテラン俳優の声は、ますます小さくしゃがれています。到底大声は出せません。しかし大声が出せないイーストウッドを使いこなしたのが、クリントのすごさなんです。
劇中、スクラップ(モーガン・フリーマン)と一緒に、マギー(ヒラリー・スワンク)の試合を見に行ったフランキー(クリント)がマギーに声を出して応援する場面があります。その時、スクラップは「ここからじゃ聞こえないぜ」と言います。憮然とした表情でフランキーは応えるのですが、これだけでこれからフランキーがマギーのトレーナーとして鍛えていくのだと分かります。何せ接近しなければ、フランキーの声はマギーにとどがないのですから。
そうなんです、フランキーの声は誰にも聞こえないほど細く小さいのです!そしてそれがこの映画のテーマを形として表現してくれているのです。
フランキーは、毎週娘に手紙を書きます。しかしその手紙は受取人不在のハンコとともに帰ってきます。
フランキーは、優秀なボクサーを慎重に育てようとします。しかし、選手はその慎重さに耳を貸さず、フランキーから去っていきます。
フランキーはマギーのトレーナーを引き受ける時、こう言います。「ルールは一つだ。質問するな。言われたとおりにやれ。それだけだ」
そして、フランキーは、マギーに「自分を守れ」と教えます。しかし、マギーにはそれが聞こえていませんでした。
そして最悪の結末がやってきます。
この映画の本当の主役は、フランキーの声なのです。それは神の声のごとく、正しいことしか言いません。しかし弱く間違いばかりを犯す人間には聞こえてこないのです。
イーストウッドの声は、映画を見る(聴く)者に、じれったさと苛立ちを生みます。彼の大声で言えない悔しさを分かち合おうと、観客は彼に優しい目を注ぎ、映画との一体感が生まれ、素晴らしい感動を共有できる仕組みになっているのです。大したものです。
とはいえ、声がだめになった点以外は、『ダーティ・ハリー』の頃から何も変わっていないではないかと言う人がいても、ゴウ先生、否定はしません。しかし、ことこの『ミリオンダラー・ベイビー』において、イーストウッドは彼にしかできない役と演技を完璧にこなしたことを忘れてはいけません。
アカデミー最優秀主演女優賞を獲得したヒラリー・スワンクの演技力もすごいです。ボクシング・ファイトの場面もさることながら、イーストウッドの小声とシンクロさせる彼女の大きく滑舌のよい発声が――それもクリントの演出プランかもしれませんが――二人の陰陽を明確にしてドラマを盛り上げていくのです。
そして、最後には、皮肉なことに、病院のベッドで声を出せなくなったがゆえに、マギーは初めてフランキーと本当の意味で心を通い合わせることができるようになるのでした。
その意味では、全編ナレーター役もつとめるスクラップの声が、この映画の性格を如実に現してもいます。モーガンの暖かさがその声と話す内容からこちらの胸に響いてきます。フランキーの小声とマギーの元気よい声の中間で二人を結び付けているのがよく分かる声なのです。
イーストウッドの映画は、目で見るだけではだめなのです。耳を澄ませて心で聴く姿勢があれば、感動は幾重にも広がっていくのです。
ゴウ先生ランキング:A
最後の30分間の展開は、何も下準備しないで映画館に入ったゴウ先生にはショックでした。そこまでマギーを苦しめてどこが楽しいの、とクリントに言いたくなったのが、A+を逃した理由です。
でも感動しました。今年見た映画では、うまさでダントツ1位。感動で『パッチギ!』についで2番です。
公開終了間近ですが、ぜひ映画館の大スクリーンで楽しんでください。
ちなみにゴウ先生は、6月15日(水)に新宿ピカデリー1という大劇場で見ました。平日昼間の1時30分からの回でしたが、7割くらいは埋まっていました。後から5列目くらいのところで見ましたが、両サイドの非常口の緑色のライトが邪魔であること以外は、実に快適でした。悪名高い映画館ではありますが、この映画に関してはマルでしょう。
なお、INDECでは来月アメリカで発売されるDVDを入手して定期上映会にかける予定です。その時にまたじっくりと細部まで検討したいと思います。(そう言えば、来月『パッチギ!』も出るんですよね。楽しみですけど、映画館で見たい作品もゴマンとあるし、出費に頭を悩ませられる7月になりそうです。)
先生の文章のように人の心を動かす事が出来る書き方を私も学んでいきたいと思います。今後とも御指導の程何卒宜しくお願い致します。