一歩先の経済展望

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5%成長の中国に資産デフレの足音、ベッセント氏もリセッションと警鐘鳴らす

2025-01-17 13:41:34 | 経済

 2024年の中国国内総生産(GDP)は政府目標の5%成長を達成したものの、中国経済が回復基調に転じたと楽観することはできない。新築住宅価格の前年比はマイナスを続け、消費者物価指数(CPI)の前年比がゼロ%付近で推移する現状は、資産デフレの典型的な「症状」であり、そこに回復の兆しはみえない。米財務長官に指名されているベッセント氏は中国経済がリセッション(景気後退)に陥っていると述べた。

 住宅価格下落の元凶である空き家の圧縮に手を付けない限り、消費を刺激する住宅や自動車、家電製品の買い替え促進策に税金を投入しても「ざるで水をすくう」という結果になるだけだろう。トランプ関税に対応するため、金融緩和策を強化して元安を誘導していくことも予想されるが、その先にはマネーが中国から外国に流出するキャピタルフライトという激しい副作用を覚悟する展開になりかねないと予想する。

 

 <24年のGDP成長率は5%、ベッセント氏は景気後退と指摘>

 中国国家統計局が17日に発表した2024年第4四半期GDPは前年同期比プラス5.4%と、市場予想の同5.0%や第3四半期の同4.6%を上回った。その結果、24年の成長率は5%前後という政府目標を達成する5.0%成長で着地した。

 この数字を信じれば、中国は24年になって深刻化してきた「不動産不況」から脱出するとの明るい展望が見えてくるはずだ。だが、筆者はこの見方を強く否定したい。

 トランプ次期米大統領から財務長官に指名されたベッセント氏は、16日の米上院財政委員会の指名承認公聴会で中国経済について、恐慌とまでは行かないにしてもリセッションに陥っているとの見解を示した。

 筆者もベッセント氏の見方を支持する。以下にその理由を指摘したい。

 

 <止まらない住宅価格の下落>

 まず、昨年12月のCPIは前年比プラス0.1%にとどまり、2024年通年でも同0.2%という小幅の上昇にとどまった。5%成長下のインフレゼロ%という現象は、あまりにも不釣り合いだ。CPI上昇率が前年比ゼロ%付近で張り付いているのは消費が不振である何よりの証拠だと指摘したい。

 また、中国国家統計局が17日に発表したデータを基にロイターが試算した昨年12月の新築住宅価格は、前月比横ばいだった。横ばいとなったのは2023年6月以来初めてで、政府の住宅購入刺激策の効果が出てきたとみられているものの、12月の前年比はマイナス5.3%だった。住宅価格の下落には歯止めがかかっていない。

 

 <12月生産の加速、トランプ関税実施前の駆け込み輸出の影響か>

 足元では、2024年12月の鉱工業生産が前年比プラス6.2%と11月の同5.4%から伸びが加速し、12月の小売売上高も前年比プラス3.7%と11月の同3.0%から伸びが上向いてきたという明るいデータもある。

 だが、生産の加速は「トランプ関税」の引き上げで対米輸出が大幅に減少する前に、駆け込み的に輸出が増えていることと連動した動きと理解するのが合理的だろう。

 小売売上高も政府の消費刺激策の効果があったにしろ、年末の消費が伸びる季節だったという要因が加味されている部分も勘案する必要がある。

 生産は駆け込み効果が一巡すれば、その反動で大幅減に直面する局面がいずれ訪れると予想される。小売売上高も年末年始のイベントが終わってしまった後の「節約」がどこかで顕在化するのではないか。

 さらに12月の失業率は11月の5.0%から5.1%に上がっており、トランプ関税の引き上げを前に中国企業の経営者が慎重な採用姿勢を取っていることをうかがわせ、消費を下押しするリスクが高まっている。

 

 <住宅価格下落の防止、ストック調整の実施が不可欠>

 筆者は、中国が深刻な資産デフレに突入しつつあると分析している。上記で指摘した新築住宅価格の下落基調だけでなく、2024年1─12月の不動産投資が前年同期比マイナス10.6%と1─11月の同マイナス10.4%から落ち込みが大きくなり、同じ期間の不動産販売(床面積ベース)も前年比マイナス12.9%と2桁のマイナスを記録している。

 保有している不動産の価格が下落し続ければ、いくら買い替えを刺激しても損失が大きくなるために不動産の買い手が手控える現象が継続してしまう。この現象を止めるには、いわゆるストック調整に乗り出すしかない。

 

 <空き家処理なしの消費刺激策、効果は限定的>

 具体的には、膨大な数に上っている空き家を財政資金(公的資金)で処理し、住宅の下落圧力を止めるのが最も時間をかけない近道と言える。米ウォールストリートジャーナルは昨年10月、空き家が9000万戸超に達すると報道。その中には、代金が支払われているにもかかわらず、未完成の物件が約2000万戸も存在していると指摘した。

 だが、中国政府が公表している経済対策は、このストック調整には触れず、住宅や自動車などの耐久消費財の買い替え促進のための税金投入など、うわべの消費刺激策にとどまっているのが特徴だ。

 これでは、刺激効果で一時的に消費が上向いても、保有している不動産の価値が刻一刻と目減りしていることが判明すれば、資産防衛的な行動に消費者が走り、消費を抑制する行動が止まらないということになる。

 

 <トランプ関税対策の金融緩和と元安、資金逃避の誘発という副作用も>

 この内需不振を輸出増で埋めようとしてきたのがこれまでの中国の基本政策だったが、トランプ氏の大統領就任で高い関税による輸出の大幅減を回避する道が見えなくなってきている。

 高い関税の障壁を実質的にかいくぐるため、中国当局が人民元安へと誘導することを目的として金融緩和策を積極化させるという選択肢も想定される。

 だが、この政策は典型的な近隣窮乏策として東南アジア諸国の経済に打撃を与えるリスクが増大する。それだけでなく、中国国内から海外への資金シフトが加速し、それがキャピタルフライト(資金逃避)にまで発展するリスクも増大する。

 資金流出が目立ってくると、中国国内の株式市場で株価が急落するなどの市場混乱を誘発する副作用も覚悟しなければならなくなる。

 

 このようにGDPの5%成長ということと同時に進む資産デフレの足音の高まりは、中国経済の足元がもつれるリスクを意識させる。膨大な数の空き家を処理して住宅下落の圧力を減少させるというストック調整にいつ、本格的に着手するのか、それとも放置するのか──。中国当局の政策判断の行方は、2025年の世界経済の動向を大きく左右することになる。


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