12月米雇用統計をめぐる思惑が市場で交錯している。市場予想を上回る強めの数字が出れば米長期金利の上昇と米株下落を招くとの懸念が浮上する一方、20日に就任するトランプ次期米大統領の政策への不透明感から市場予想通りの結果になっても米長期金利が上昇して米株下落につながるとの見方も出ている。
日本勢にとっては、週明け13日が祝日で3連休となり、10日と13日のNY市場で価格変動が大きくなった場合、10日の東京市場終値とのギャップが大きくなるリスクも意識され、これまでになく神経質な週末を迎えようとしている。
<非農業部門の雇用者数予想は16万人増>
12月米雇用統計に対する市場の予想は、非農業部門雇用者数が前月比16万人増、失業率が前月から横ばいの4.2%となっている。
前月の非農業部門雇用者数が同22万7000人だったのと比べると市場予想は弱めに出ているが、前月の反動減が出てくると予想した市場参加者が多かったようだ。
また、米民間雇用サービス会社のADPが8日に発表した12月の雇用報告によると、非農業部門雇用者数12万2000人増と、市場予想の14万人増、前月の14万6000人増をいずれも下回った。雇用統計とADPのデータは一致しないケースが多いものの、普段であれば12月雇用統計の予想値の16万人は「妥当な線ではないか」(国内金融機関)との声が多くなるケースだ。
<トランプ政策への不透明感強く、織り込めない市場>
だが、足元におけるマーケットは疑心暗鬼が渦巻いている。というのも、20日に米大統領に就任するトランプ氏の打ち出す政策が、どの程度まで「過激な内容」になるのか、市場の見方が全く収れんしていないためだ。一部の市場関係者は「不透明感が強すぎて、市場価格に織り込めない。結果的に足元の市場価格は、株、債券、為替ともトランプ政策の効果を織り込んでおらず、過激な内容が公表されれば大きな価格変動は避けられない」と話す。
トランプ氏の掲げる不法移民の強制送還は雇用市場における需給をタイト化させ、関税の引き上げは米国内におけるモノの値段を押し上げる。その結果、米国内におけるモノとサービスの価格を押し上げ、消費者物価指数(CPI)がかなり急カーブで上昇するという「漠然とした」懸念をマーケットに植え付けている。
その結果、9日のNY市場で10年米国債利回り(長期金利)は前日の4.7%台から低下したものの、4.691%という高水準に張り付いた格好となった。
<予想比強めなら、日米株価を直撃へ>
こうした中で迎える12月米雇用統計は、予想比で強めの結果が出た場合、米長期金利が節目の4.75%を目指して上昇し、場合によってはそのポイントを突破してさらに上がる可能性が指摘されている。
米長期金利の上昇は米ハイテク株を直撃し、高値圏で推移する米株がかなりの幅で下落する事態を懸念する声が広がっている。その場合は日経平均先物もつれ安し、14日の東京市場では10日終値とのギャップが大きくなってスタートする展開が予想される。
<予想通りで米長期金利上昇のケース、市場の強い不安感の反映か>
また、米雇用統計が予想通りの結果になっても、市場に滞留するトランプ政策の不透明感に対する警戒が強いことを反映し、米長期金利が上がり出すとの声も市場の一部で聞かれる。
もし、非農業部門の雇用者数が16万人増だったにもかかわらず、米長期金利が4.7%台に乗せるようなら先行き不透明な市場に対する参加者の強い「不安感」が渦巻いているとみた方がいいだろう。
<日本株を左右するトランプ関税の中身>
米長期金利が4.7%台に上昇するケースでは、ドル/円もドル高・円安方向に動く公算が大きい。米長期金利の上昇幅が大ききなれば、いったんは160円台に乗せる展開もありうるだろう。
為替が円安に傾けば、輸出株主導で日本株は買われやすいはずだが、仮に米長期金利上昇ー米ハイテク株下落ー米株全面安の展開になれば、日本株は円安にもかかわらず下落する可能性が高いと予想する。
やはり根底にあるのは、トランプ氏が標榜している関税引き上げが本当に「即時・広範・大幅」となった場合は、輸出株の大きな打撃になって日本株全体を大幅に下げる要因になりかねない、と警戒する見方が広がってきたことだ。
<予想比弱い結果、米長期金利の低下は限定的か>
他方、米雇用統計が予想よりも弱かった場合は、どうなるのか。このケースでは米長期金利が低下するとみられるが、トランプ氏の政策が不明なままでは市場に安心感が広がるパワーが弱く、低下幅は小幅にとどまりそうだとの予想が多い。
強い結果で米長期金利が大幅に上昇し、弱い結果でも低下幅は限定的という「非対称」な動きが、今の市場心理のゆがみを反映していると言える。
市場の一部では、雇用統計の結果が弱くても米長期金利が上がり出すようなら、その先の展開に覚悟が必要になるとの悲観的な見方も出始めている。トランプ政策の全容が判明するまで、市場の神経質で時に大きく変動する現象が継続しそうだ。
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